人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2015年9月29日火曜日

「PAK戦争」: 「健康長寿」をもたらす第3次世界大戦


この新しい戦争は20世紀末に始まった。その火蓋を最初に切ったのは米国のフィラデルフィアに住むジェフという男だった。ペンシルバニア大学医学部薬理学の教授である。しかしながら、彼はその戦争が単なる局地戦争に過ぎないと誤解していた。ところが戦争が一度始まってしまうと、たちまち世界大戦へ展開していった。実は学者でありながら、ジェフはキリスト教徒 (厳密にはユダヤ教徒) だったため、ダーウインの進化論を余り信じていなかった。そこで、ラットで見つけた現象がマウスでも起こることをがんとして認めようとしなかった。

そこで、豪州のメルボルンに住むチャーリーが癌研究所でみつけたマウスに関する類似の現象を、ジェフは受け入れようとしなかった。チャーリーが「Oncogene」と呼ばれるフィラデルフィアにある医学雑誌に投稿した論文を、ジェフは色々と難癖を付けた上、却下してしまった。こうして、共通の敵である「PAK」という発癌キナーゼに対する戦いは、ジェフとチャーリーという味方同志間のゲバルト (内ゲバ) へと発展していった。結局、チャーリーの進化論が正しいことが証明された。ラットで見つかったPAK病は、マウスでもヒトでも発生することが判明した。それだけではない。進化の過程で哺乳類よりもずっと下等な線虫でも、PAK病が発生することが、ずっと後になって証明された。

それでは、PAK病とは一体どんな病気なのだろうか?  一口にいえば、死をもたらすあらゆる難病の総称である。悪玉酵素PAKを何らかの方法で除くあるいは抑制すると、寿命が5割以上延びるという驚くべき事実をチャーリーは線虫を使って実証した。恐らくマウスでも同じような延命効果が出ることは疑いの余地なしである。 進化論を信じれば、人類の場合にも同様な「健康長寿への道」が開かれるだろう。面白いことには、植物界にはPAKが全く存在しない。多くの巨木が数千年以上の寿命をもつ一因は、寿命を縮めるPAKが存在しないことにあるのかもしれない。逆に、多くの植物には、動物界に特有なPAKの作用を抑制/遮断する物質が存在する。その典型的な例は、蜜蜂が木の芽から調製する「プロポリス」と呼ばれる抗生物質である。

従って、来たる「PAK戦争」に打ち勝つための優れた武器の一つはプロポリスであろう。ただし、水に不溶性という欠点がある。これを何とか克服すれば、無類の武器となろう。 もう一つの欠点は細胞透過性が低いことである。目下、この2 つを克服すべくプロポリス抗癌成分から (薬理効果がアスピリンの千倍以上の) 誘導体 (15A and 15C) をチャーリーは沖縄のPAK研究センターで開発しつつある。

更に、鎮痛剤「ケトロラック」から、より強力なエステル誘導体「15K」を開発し、
市販をめざして、特許を獲得し、動物実験を目下進めている。





2015年9月22日火曜日

悪貨が良貨を駆逐する一例: pPAK (PAKの燐酸化) に頼る「western-blot」法には危険な落とし穴!

我々「キナーゼ古典派」は、キナーゼ (特にPAK) の活性測定に放射性のATPを基質にする測定法を21世紀に入ってもずっと遵法してきた。しかしながら、巷の(特に「放射能嫌い」の) PAK研究者たちは、pPAK (PAKの燐酸化) に頼る安易な「western-blot」法を珍重し始めた。  試験管内でPAKRAC/CDC42によって活性化されると、PAKの自己燐酸化が起こり、Thr 423 が燐酸化されることが1990年代後半に発見されたからである。以後20年間ほど、この「pPAK (Thr 423 が燐酸化されたPAK) に対する抗体を製造/販売する多くのBiotech 会社が、この「western=blot」法でボロ儲けをしている。

しかしながら、細胞内ではPAKRAC/CDC42だけでは活性化されない。RAC/CDC42は必要条件の一部に過ぎず、十分条件ではないからだ。活性化には、その他大勢の細胞内因子(PIX, NCR, JAK2, ETK, FYN ,CK など) が必須であるからである。従って、細胞内でpPAKが上昇することが、「western-blot」法でわかっても、PAKが実際に活性化している証明にならない。この事実 (落とし穴) に気付かず、今でも pPAKの「western-blot」法に盲従しているPAK研究者が巷に多い。

そこで、放射能嫌いのキナーゼ研究者たちのために、我々は放射性ATPを使用しないでも、細胞内のキナーゼ活性の変化 (活性化あるいは抑制) を測定できる方法を考案し医学誌上に、ごく最近発表した (1)  それがいわゆる「MacaroniーWestern」法である。細胞を色々な薬剤で処理した後、細胞内のキナーゼ (例えば、 PAK) の活性変化を測定するために、そのキナーゼを選択的に免疫沈降したのち、「ATPーGlo キナーゼ」法によって、消費されたATPの量を「蛍の光」(ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応で発生する蛍光) で測定する方法である。この方法では、キナーゼのどこに燐酸化が起ころうが、活性の変化を確実に (しかも定量的に) 測定することができる。


参考文献:

Combination of immunoprecipitation (IP)-ATP_Glo kinase assay and melanogenesis for the assessment of potent and safe PAK1-blockers in cell culture. Drug Discov Ther. 2015;9(4):289-95.

Abstract

Cucurbitacin I (CBI) is a triterpene from a bitter melon called Goya grown in Okinawa, Japan, and directly inhibits both the Tyr-kinase JAK2 and the G protein RAC, leading to the inactivation of PAK1 (RAC/CDC42-activated kinase 1). Bio 30, a propolis produced in New Zealand, contains CAPE (caffeic acid phenethyl ester) as the major anti-cancer ingredient which directly down-regulates RAC, leading to the inactivation of PAK1. Since PAK1 is essential for the growth of RAS cancer cells such as A549 cell line which carry an oncogenic K-RAS mutant, and the melanogenesis in skin cells, here using these PAK1-blockers as model compounds, we introduce a new approach to the quick assessment of PAK1-blockers in cell culture. First, combining the immuno-precipitation (IP) of PAK1 from cell lysate and the in vitro ATP_Glo kinase assay kit (called "Macaroni-Western" assay), we confirmed that both CBI and Bio 30 inactivate PAK1 in A549 lung cancer cells in 24 h, and inhibit their PAK1-dependent growth in 72 h. Furthermore, we verified that CBI inhibits the PAK1/PAK4-dependent melanogenesis in melanoma cells by far more than 50%, while Bio 30 inhibits the melanogenesis only by 50%, with only a merginal effect on their growth per se. Since the "Macaroni-Western" kinase assay and melanogenesis are both rather simple and quick, the combination of these two cell culture assays would be highly useful for selecting both "potent" (highly cell-permeable) and "safe" (non-toxic) natural or synthetic PAK1-blockers.

2015年9月21日月曜日

ベーターエレメン; ウコンあるいはキョウオウ由来の新規なPAK遮断剤


生薬/漢方として古来から珍重されているウコン根茎には「クルクミン」と呼ばれるPAK遮断剤が含れていることは良く知られているが、最近、中国の研究グループによって、ウコン (あるいはキョウオウ) 根茎には、もう一つの新しいPAK遮断剤も含れていることが明らかにされた (1)。その名は「ベーターエレメン」(beta-elemene)発見の発端は、胃癌の放射線治療に対して感受性を高める薬剤のメカニズムを探索している内に、「ベーターエレメン」にPAKを遮断する機能があることが明らかにされた。

放射線や紫外線が発癌キナーゼ「PAK」を活性化することは前述したが、放射線治療に併用して、ウコン由来の生薬を使用すると、放射線耐性の胃癌細胞が死に易くなることから、その成分を調べている内に、「ベーターエレメン」が放射線感受性を高める薬剤の一つとして浮上したわけである。

更に、「ベーターエレメン」処理により、「PAK1IP1」(PAK1結合蛋白1) と呼ばれる蛋白が大量生産されることが判明した。この蛋白は、NF2蛋白 (マーリン=Merlin) と同様、PAKN端近くに結合して、その活性化 (自己燐酸化) を阻害する ことが、実は米国テキサス州のMDアンダーソン癌研のグループによって十数年前に明らかにされていた (2)

ただし、「ベーターエレメン」の抗癌作用 (IC50=300 micro M) はクルクミンやプロポリス成分であるCAPEARC (アルテピリン C) よりもずっと弱い。 この薬剤の細胞透過性及ぶ水溶性を高める誘導体の開発が将来望まれる

ごく最近、別の中国の研究グループによって、「ベーターエレメン」のdimethylpiperazine 誘導体 (IIi) が合成され、抗癌作用が100倍ほど高められた (IC50=3 micro M) という報告が発表された (3)


参考文献:
1Liu JS1, Che XM1, Chang S1, Qiu GL1, He SC1, Fan L1, Zhao W1, Zhang ZL1, Wang SF1 β-elemene enhances the radiosensitivity of gastric cancer cells by inhibiting Pak1 activation. World J Gastroenterol. 2015 Sep 14; 21(34): 9945-56.
2. Xia C1, Ma W, Stafford LJ, Marcus S, Xiong WC, Liu M. Regulation of the p21-activated kinase (PAK) by a human Gbeta -like WD-repeat protein, hPIP1. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;  98(11): 6174-9.
13,14-bis(cis-3,5-dimethyl-1-piperazinyl)-β-elemene, a novel β-elemene derivative, shows potent antitumor activities via inhibition of mTOR in human breast cancer cells. Oncol Lett. 2013; 5(5): 1554-1558.