人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2016年1月31日日曜日

「豪琉 (合流) 養蜂」 というプロポリス製造合弁会社?  

最近、豪州北東沿岸 (亜熱帯に属するクイーンズランド州と北方領土) から採取されるプロポリスにもゲラニル系側鎖 (例えば、Propolin G など) を有するフラボノイド類が含まれていることが判明した。 従って、その起源植物も恐らく (沖縄産プロポリスと同様) 「オオバキ」(ラテン名=Macaranga tanarius) であろうと推定される。

亜熱帯プロポリス(例えば、沖縄産) はブラジル産グリーンプロポリス(GP)に比べて、抗癌作用が8倍も高い。 そこで、土地の狭い沖縄と広大な土地を誇る豪州の養蜂業者が共同して、「豪琉 (合流) 養蜂」という合弁会社を設立して、Propolin G を主体とする新しい "亜熱帯プロポリス" を世界的に製造/販売しようという、アイディアが目下浮上しつつある。 

数年前の琉球新報の記事によると、沖縄ポッカ食品は "オオバキ" を原料とする健康補助食品を開発しようと計画しているようである。 私の考えでは、既にオオバキから(ミツバチにより)調剤された生薬/抗生物質である「プロポリス」を単にエタノール抽出して、健康補助食品あるいは医薬品として、開発したほうが "ずっと効率の高い" アプローチであると確信している。 従って、沖縄ポッカ食品を 「豪琉プロポリス」 の販売元として、参画させるのも一案であろう。。。

2016年1月24日日曜日

今月の英文ベストセラー: 「肺癌との闘い: 医師が患者になった時」

脳外科の優秀な若い医師 (37) がある日突然、肺癌の宣告を受けた! この手記はその運命の日から始まる。医師が患者に生まれ変わった日以来、彼の人生観や医学観が急速に変化した。 その変化を刻々と綴ったのが、この手記である。彼は結局、愛妻 (ルーシー) と愛娘 (リズ) をこの世に残して、肺癌で2015年3月に他界した。

私は医師ではないが、癌(特に脳腫瘍)の治療薬を開発しつつある薬学者である。私の大学時代の同級生仲間に、癌研究(特に抗癌剤)の専門家になった優秀な人物がいた。彼も肺癌の宣告を受けて、数カ月の闘病生活の末、数年前にとうとう亡くなった。その友人を思い出しながら、この手記(英文原書)を読んだ。原書のタイトルは、「When Breath Becomes Air」であった。

英文タイトルをそのまま直訳しても余り意味はない (強いて訳せば「肺が空っぽになる時」)。そこで、「医師が患者になった時」と意訳して、副題とした。主題は、ずばり「肺癌との闘い」が適当であろう。。。 もし、機会があったら、このベストセラーの邦訳を出版したい。 この本の訳者として、私が最適任であると思っているからである。 しかしながら、(副作用のない) 脳腫瘍や肺癌の特効薬 (PAK遮断剤) をできるだけ早期に市場に出す仕事も非常に重要である。 そんな薬は、市場には未だ出ていないからである。 

将来、こんな手記がもう出版されなくなる (癌や難病を絶滅する) ことの方が、むしろ優先されるべきであろう。

この手記は 「NYタイムズのベストセラー」になるほど、感動的なタッチで書かれている。著者は優秀な外科医であるばかりではなく、優れた文才の持ち主でもあった。 しかしながら、私をひどく失望させた一点がある。 それは、彼はなぜ「プロポリスを飲む」ことによって、自身の末期癌を克服することに気づかなかったのだろうか、という点である。 因習的な (石頭の)「外科」育ちだったからであろうか?  頭が柔軟な 「水平思考の効く」 内科医であったなら、この著者はPAK遮断剤である 「プロポリス」 を飲んで、きっと生き残ったであろう。 彼はロッシュ販売のEGF レセプター阻害剤の一種を抗癌剤として選んだ。これは肺癌の増殖をある程度抑えるが (プロポリスと違って) 癌の転移を抑え難い (1)。 厳しい言い方かもしれないが、彼自身 (あるいは主治医) は選択を誤った (「西洋医学」に頼り過ぎた) ようだ。

そういう意味で、この手記は、外科医の"悲劇" を綴ったものである。 彼がもし生き残っていたら、手記など書き残さなかっただろうし、仮に手記を出版しても、ベストセラーにはならなかっただろう。 古今東西、 悲劇は観衆に受けるが、喜劇は余り感動を呼ばない。

悲しいかな、 彼は言わば 「外科のパラダイム」 の犠牲者の一人であった。  あるいは「科学者(医師) の道」を捨て、敢えて 「文学者の道」を選んだのかもしれない。。。
 

ついでながら、癌の種類は違うが、やはり 「脳外科医が患者になった手記」が十数年前に、日本語で出版されている:  岩田 隆信 (著) 「医者が末期がん患者になってわかったこと―ある脳外科医が脳腫瘍と闘った凄絶な日々」 (角川文庫)  1999 .  著者は昭和医大病院の外科医で、末期の脳腫瘍で、やはり他界した。 ただし、この手記はベストセラーではない。 恐らく 「文学的な要素」に乏しいからだろう。 この脳腫瘍(グリオーマ)もプロポリスを飲めば、副作用なしに根絶できたはずであるが、この外科医はどうやら、その手を選ばず、3度に渡る手術 と従来の有毒な抗癌剤 (ケモ) カクテルに頼って、壮絶な最後を遂げた 言わば、「20世紀最後のサムライ」 だった。

ただし、脳以外は正常だったので、死直後、幾つかの臓器を他の患者に提供したそうである。 従って、彼の死によって、恩恵を受けた何人かの患者がいた。。。 "権威主義" の医学部、特に外科では、ある特定の "椅子" を巡って、壮絶な闘いが展開する場合が多い。彼はその椅子にも執着を持っていた。それが転がり込む直前に「末期癌の告知」を受けた。 さぞ、無念であったろう!  

もし、プロポリスで自分の癌を治療したら、外科医の権威は失墜し、目前の「椅子」は、はるかかなたに遠ざかるに違いない。 従って、彼の頭には、"プロポリス" という選択枝は浮かびようがなかった! これが 「悲劇の始まり」 だった。 もし、彼が内科医だったら、別の選択が出来たかもしれない。 患者にとって最も大事なことは、「実績」 と 「誠意」 である。 「権威」など何の役にも立たない! 

 私が小学4年の初め (敗戦直後)、小児結核で半年休学せざるを得なくなった。近所の町医師から飲み薬をもらったが、いっこうに効き目がなかった。「薮医者」だった。 ある日、母が勤め先 (GHQ) の親しい駐留軍将校から、結核の特効薬「パス」をもらって来た。 (戦後まもなくスウエーデンの化学者によって開発された) 「パス」のおかげで、我々3人兄妹は命びろいした。 以来、我が家は 「医者の権威」 というものを信じなくなった。


1. Liu Y1, Wang S2, Dong QZ3, Jiang GY3, Han Y3, Wang L3, Wang EH3.
The P21-activated kinase (PAK) expression pattern is different in non-small cell lung cancer and affects lung cancer cell sensitivity to epidermal growth factor (EGF) receptor tyrosine kinase inhibitors. Med Oncol. 2016 Mar; 33(3):22.
 

2016年1月23日土曜日

太陽系に 「第九の惑星」?

我々の住む太陽系には、地球の他に少なくとも8つの惑星が存在することが昔からわかっている。(小学校で習った基礎知識によれば)太陽からの距離の順に、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星が知られている。

米国カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは去る20日、太陽系の最外縁部に存在する未知の「巨大惑星」を発見した可能性があると発表した。

通称「プラネット・ナイン(Planet Nine)」と呼ばれているこの天体は、地球の約10倍、冥王星の約5000倍の質量を持ち、「太陽系外縁部の異様な、非常に細長い軌道」を巡っている。 「この新惑星が太陽の周りの公転軌道を完全に一周するのに1~2万年かかる」と推定される。 地球が太陽の周りを一周するのに丸一年 (365日) かかることから、この新 "Planet"(or Commet?)の軌道は、地球の軌道の1ー2万倍も長いことになる。

この研究結果は、天文学専門誌「Astronomical Journal 」に掲載された。 この天体は数理モデルとコンピューター=シミュレーションを通じて発見された。 Caltech (パサデナ天文台)のマイク・ブラウン(Mike Brown)教授(惑星天文学)は 「これは、本物の太陽系第9番惑星とみられる。 非常に胸を躍らせる発見」と語る。

ハレー彗星は75年に一度地球に接近して来るが、この惑星/彗星は1ー2万年に一度しか地球に接近しない。 従って、この新しい(地球からはるか遠い)天体の発見を、我々人類の生活に実用(「悪用」あるいは「良用」)するチャンスは余りないだろう。 我々「シロウト」(非天文学者)にとっては、「Planet Nine」は、恐らく映画 「Star War (or Peace)」 の続編の筋書きを想像/創造する新しい材料 (ネタ) にしかならないだろう。

2016年1月22日金曜日

「ポロニウム」によるスパイ暗殺事件 (2006年) の真相

10年ほど昔、ロシアから英国に亡命してきたアレキサンダー=リトビネンコがロシアのスパイによって、ロンドンのホテルで毒殺された。英国のスコットランド=ヤード(ロンドン警察)による調査結果によれば、暗殺に使用された毒薬は放射性元素「「ポロニウム」で、彼が飲んだ紅茶の中に混入されていた。この暗殺事件の背後には、ロシアの現大統領であるプーチン(元KGB所長) が深く関係しているようである。 というのは、プーチンが政敵を毒殺したり、投獄したりした事実を、亡命前にリトビネンコが西側のメディアに暴露したからである。 さて、皮肉にも、「ポロニウム」は「ラジウム」と共に、キューリー夫妻(ノーベル受賞者)によって、1898年に初めて発見された放射性元素である。 「ポロニウムの」名は、キューリー夫人の生まれ故郷「ポーランド」に因んで名付けられた。 当時、ポーランドはロシアの支配下にあった。 「ラジウム」は幸い、医療や蛍光塗料など平和利用度が高いが、「ポロニウム」は余りにも毒性が強く(平和利用度が極めて低く)、その存在が一般には余り知られていない。キューリー夫妻とも、このポロニウム暗殺事件を知って、草場の影でさぞかし嘆いているだろう。

悲しいかな、発見者や発明家には、(他人による)その「悪用」を防止しうる力が備わっていないからである。 放射性「ウラニウム」や「プルトニウム」の発見自体は偉大でも、それを悪用し、「原爆」を戦争(大量殺人)の道具に使用したり、(平和利用という「隠れ蓑」を装って)「原発」によって商売をするのは、(米中ソなど)超大国の軍隊や(「東電」など)大手発電企業の「悪玉」たちである。 一般国民が(その悪用を防止するため)しっかり監視する必要がある。 最近、台湾の総統に当選した蔡 英文は、ドイツのメルケル宰相と同様、「原発廃止」を提唱している。 安倍さんも「時代に遅れぬよう」、これらの聡明なインテリ女性指導者たちに見習うべきである! 

2016年1月20日水曜日

"骨粗しょう症" (Osteoporosis) はPAK依存性の難病

「納豆をよく食べる地域の人は、骨が丈夫」 と昔から言われている。その(骨を丈夫にする) 納豆の主成分がビタミンの一種、K2 (メナキノンー7)であることが判明して以来、ミツカンは 「金のつぶ ほね元気」という「トクホ」納豆商品を開発/販売し始めた。 この納豆のK2含量は、通常の納豆のK2含量の2倍以上といわれている。 更に、ノルウエーの会社 (NattoPharma) からは、K2の錠剤が「骨粗しょう症の予防薬」として販売されている。

さて、なぜK2が骨粗しょう症に効くのだろうか?  面白いことには、最近、クルクミンも骨粗しょう症を予防することが、動物(ラット)実験で明らかになった(1)。ラット(雌)から卵巣を摘出すると、骨粗しょう症になるが、クルクミンを投与したラットでは、骨粗しょう症が起こらない。前述したが、クルクミンはPAKを直接阻害する。 更に、K2が (PAK依存性の)スイゾウ癌の増殖を抑えることが、10年以上前にわかっている。 これらの実験結果を総合すると、「骨粗しょう症(Osteoporosis)はPAK依存性の難病」であるという結論に達する。 従って、プロポリスなど一連のPAK遮断剤には、骨粗しょう症を予防、治癒する薬理作用があると考えて間違いないだろう。 実際、プロポリス中の抗癌主成分(PAK遮断剤)CAPEは、少なくともマウスで骨粗しょう症を予防する(2)。

 さて、NF1の患者 (特に、幼児) の骨がもろいのは、腫瘍の発生以外に「骨粗しょう症」が併発しているからと考えられる。 従って、その治療には、(骨の形成に必要な) ビタミンD3やカルシウム源 (例えば、牛乳) ばかりではなく、K2を十分に供給する必要があることを、ここで付け加えておきたい。

参考文献: 
1. Hussan F1, Ibraheem NG, Kamarudin TA, Shuid AN, Soelaiman IN, Othman F. Curcumin Protects against Ovariectomy-Induced Bone Changes in Rat Model. Evid Based Complement Alternat Med. 2012; 2012:174916. 
2. Duan W1, Wang Q2, Li F3, Xiang C1, Zhou L3, Xu J3, Feng H4, Wei X5. Anti-catabolic effect of caffeic acid phenethyl ester, an active component of honeybee propolis on bone loss in ovariectomized mice: a micro-computed tomography study and histological analysis. Chin Med J (Engl). 2014;127(22):3932-6.
 

2016年1月17日日曜日

台湾初の聡明なインテリ女性総統 「蔡 英文」 の略歴

台湾屏東県枋山郷出身で客家の旧家の出 (1956年生まれ)。台湾のトップ名門大学 「国立台湾大学」 法学部卒業後、米国のコーネル大学 Law School で法学修士英国のロンドン大学院で法学博士を取得。帰国後、国立政治大学及び東呉大学の教授に就任。専門は国際経済法

国民党政権下の1990年代に、経済部の国際経済組織首席法律顧問、経済部貿易調査委員会委員、行政院大陸委員会委員、行政院公平交易委員会委員などを務め、1999年に李登輝総統が発表した「中台関係」の新定義、いわゆる「二国論」に深く関わる (台湾は香港と違って、中国の一部ではなく、「独立国」という見解)。

「民進党」が政権を獲得した2000年5月、中台関係の政策を受け持つ行政院大陸委員会の主任委員に就任。2004年には民進党から立法委員選挙に出馬して当選、2006年1月から2007年5月まで行政院副院長(副首相)を務めた。

2008年5月、民進党が下野した直後の党主席選で (対抗馬の辜寛敏や蔡同栄に圧勝し)、第12代主席に就任 (民進党初の女性党首)。2010年5月、第13代主席に再選。

2010年11月に実施された地方選挙で、新北市初代市長選挙に出馬するも、国民党の朱立倫に惜敗。2012年1月実施の総統選の民進党公認候補として、再選を目指す国民党の現職の馬英九と次期総統の座を争ったが敗れた。2014年、蘇貞昌の後任として再度、党主席に就任。

2015年6月、米紙『タイム』アジア版の表紙を飾り、独占インタビューも掲載。 2015年10月、日本を訪れ、政府高官や与野党幹部らと会談を行った。
2016年1月16日、台湾総統選で与党・中国国民党の朱立倫主席、野党・親民党の宋楚瑜主席を破り、初当選を果たす (初の女性総統!)。
少なくとも、中国語 (台湾語)、英語、日本語など3か国語を喋る。

2016年1月14日木曜日

認知症 (AD) 治療薬 「ドネペジル」 (E2020) はPAK遮断剤?

1980年代末に、エーザイ (杉本八郎ら) とファイザーにより共同開発された「アセチルコリンエステラーゼ」阻害剤 「ドネペジル」塩酸は目下、認知症 (アルツハイマー病) の治療薬(ジェネリック)として使用されているが、最近になって、この薬剤には抗炎症作用もあることが明らかになってきた。更に、抗炎症作用のメカニズムを詳しく調べてみると、痛みの源泉「プロスタグランディン」を生産する酵素「COXー2」を抑えていることが判明した (1)。

前述したが、「COXー2」遺伝子の発現にはPAKが必須である。従って、ロッシュから販売されている鎮痛剤/抗炎症剤「トラドール」と同様、「ドネペジル」塩酸は、水溶性のPAK遮断剤である可能性が極めて高い。 実際、「ドネペジル」の化学構造は、CAPEやクルクミン (PAK遮断剤) と良く似ている。 言い換えれば、「トラドール」あるいはその誘導体も、癌ばかりではなく、認知症の治療にも(将来) 使用しうる可能性がある。

参考文献: 

1. Kim HG1, Moon M2, Choi JG1, Park G3, Kim AJ4, Hur J5, Lee KT3, Oh MS6. Donepezil inhibits the amyloid-beta oligomer-induced microglial activation in vitro and in vivo. Neurotoxicology. 2014 ; 40: 23-32.

2016年1月13日水曜日

2人の "ノーベル賞" 科学者の友情物語: エーリッヒ と ベーリング

1880年頃、ベルリンにあるロベルト=コッホ伝染病研究所勤務の科学者エミール=フォン=ベーリング博士が、ある日、ベルリン大学病院の伝染病棟を訪れた。ある伝染病患者から得た培養液を実験室に受取りに来たのだ。ところが、その時には係のものが不在で、代わりにパウル=エーリッヒ博士が何やら実験中だった。 インキュベーターから培養液を受け取ったあと、帰りがけに、ベーリングはエーリッヒに「一体何を研究しているのか」と尋ねた。 エーリッヒは「ミミズにメチ
レンブルーを注射して、それが脳だけを特異的に染色する不思議な現象
を観察中」 と得意気に答えた。 脇にあった顕微鏡を覗いてみると、ミミズの脳だけがブルーに染まっていた。 実はその当時、ベーリングのボスであるコッホは結核の病原菌を同定しようと苦心していた、「もし、結核菌を特異的に染める方法が見つかれば、臨床上画期的な発見になるだろう」 とエーリッヒに説明した。

1882年に、コッホは結核菌の分離に成功し、その発表講演会へベーリングが個人的にエーリッヒを招待した。 これが2人の研究者の長い友情の始まりになった。実は、2人共、1854年生まれの同輩だった。 講演会が終わった時、エーリッヒはコッホから結核菌の培養液をもらい、大学病院を辞めて、自宅に建てた実験室で、結核菌の染色法を開発し始めた。数カ月後のある冬の日、ベーリングが久しぶりに彼の実験室を訪ねてきた。 ところが、エーリッヒはコンコン咳をしていた。 風邪かと思ったが、実はそうでなかった! その日、ある偶然が重なって(奥さんによる「怪我の功名」のおかげで)、エーリッヒはついに結核菌の染色に成功した。ベーリングは親友の健康を気づかって、「その染色法で、君のたんを染色してみたまえ」と促した。 果たせるかな、そのたんに結核菌が染色されていた! そこで、ベーリングはコッホにその成功(染色法)を報告すると共に、結核に感染してしまったエーリッヒを静養のため、奥さんと共に暖かいエジプトへ送った。

幸い、数カ月後に肺結核から解放され、ベルリンに戻ってきたエーリッヒは、コッホ研究所で働くことになった。 以後、ベーリングと共同で、ジフテリアの抗毒素(馬の抗血清)を開発して、当時世界中に蔓延していた小児ジフテリアの治療に成功した。ベーリングは、その功績で1901年に最初のノーベル医学賞をもらう。 エーリッヒも1908年に彼の免疫理論(側鎖説)に対して、ノーベル医学賞をもらう。 更に1909年に、エーリッヒは秦佐八郎と共に、梅毒の特効薬「サルバルサン」(化合物606)を開発して、「化学療法の父」と呼ばれるようになる。サルバルサンがいわゆる「魔法の弾丸」と呼ばれる由縁は、次の通りである。梅毒の病原菌「スピロヘータ」に特異的に結合するアニリン色素を同定し、それに「毒性のヒソ化合物」を付加した誘導体がサルバルサンとなった。 組織染色法の天才 「エーリッヒ」 ならではの名案である。

以後も2人の友情は続き、「サルバルサン」臨床テストが開始した頃、大量生産に伴う製品不良の結果、副作用(ヒソ中毒)が発生したことから、裁判ざたになった時にも、ベーリングはエーリッヒの「サルバルサン療法」を弁護するために、証人台に立ったという有名な逸話がある。2004年に、"2人の友情" と "生誕150周年" を記念して、ドイツで記念切手が発売された。  

なお、前述した小説「ドクター=アロースミス」に登場する細菌学の大家 「ゴットリーブ」のモデルになった実在人物は、ドキュメンタリー「微生物の狩人」に収録されているルイ=パスツール、ロベルト=コッホ、パウル=エーリッヒなどである。   

2016年1月11日月曜日

様々な難病や老化現象をめぐる新しい 「内科パラダイム」 の構築

従来の医学、特に病理学は「縦割り」になっていた。 例えば、癌に関して言えば、すいぞう癌、大腸癌、乳癌、胃癌などのごとく、臓器の違いに基づいて癌を分類してきた。 しかしながら、実際には分子レベルで癌の原因を分析してみると、例えば、「PAK」という発癌キナーゼは、どの臓器でも発癌の原因であり、臓器特異性が殆んど見られない。 従って、「PAK依存性癌」(大部分の固形腫瘍) と少数の「そうでない癌」に分類すべき時代が既に来つつある。 更に、PAKが病因になっている病気は癌ばかりではなく、種々の炎症 (喘息、リューマチ、多発性硬化症、胃潰瘍など)、種々の感染症 (エイズ、マラリア、インフルエンザなど)、種々の神経疾患 (例えば、認知症、パーキンソン氏病、癲癇、統合失調症、鬱病、自閉症など) 、糖尿病 (2型)、高血圧、肥満症なども難病も、PAK依存性であることが最近、確立しつつある。  従って、難病を多数の「PAK依存性疾患」と「それ以外の疾患」に大別する必要性が、実用的な見地から求められている。 ここで、「実用性」という意味は、勿論、「病気の治療」を第一に念頭においている。

上記のような新しい医学の「パラダイム」に従えば、(新しく開発されつつある) PAK遮断剤は「PAK依存性疾患」の治療薬に、その他の既存の医薬品は、「それ以外の疾患」の治療薬に、という風に、治療薬を大別することができる。 つまり、表面的な症状の違いを越えて、臨床医 (癌専門医でも、感染症医でも、精神病医でも) は全て、共通の知識と治療法を分かち合うことができる。 そうすれば、これらの治療薬を開発/供給する製薬会社も、抗癌剤とか、胃腸薬とか、抗生物質とか、従来の (縦割り式の) 医薬品の分類から、「PAK遮断剤」と「それ以外の医薬」という、より大局的な医薬品の開発アプローチに転換するであろう。 少なくとも、創薬をめざす薬学者である私は、そう信じている。従来通り個別の臓器を扱わざるを得ない「外科医」の世界では、 このような新しい分子病理学的な「パラダイム」には、多少抵抗があるかもしれないが、専ら薬の投与で難病を治療する「内科医」の世界では、上記の新しいパラダイムに余り強い抵抗はないはずである。 少なくとも、これから医学をめざすフレッシュな若い学生諸君には、このような新しい「パラダイム」に基づく医学的アプローチをぜひお勧めしたい。 

最後に、「老化現象」自体もPAK依存性であることを喚起したい。 頭脳を含めてあらゆる臓器の老化を予防あるいは遅延する(「健康長寿」をめざす) ためには、PAKを遮断あるいは抑制する必要がある。 旧態依然とした (専ら「解剖学」に基づく) パラダイムから、より近代的な (「シグナル分子療法」に基づく) パラダイムに、21世紀の「内科」概念を構築し直すことが緊急に望まれる。

2016年1月10日日曜日

2008年映画「幸せのきずな」(Flash of Genius) :
Dr. Bob Kearns の発明と特許をめぐる裁判闘争

雨や雪の降る日に作動する自動車の(断続的に動く) 風防ガラス=ワイパーは、1969年以来、米国を始め、殆んど世界中の車に使用されてきた。 実は、この装置を発明したのは、米国のデトロイト生まれのエンジニア 「Bob Kearns 教授」 (1927-2005) である。勿論、1964年に特許を申請し、許可された。そこで、デトロイトにある自動車メーカー「フォード」に、この装置の共同開発を提案した。

当初、フォードはそのワイパーの開発に関心を示していたが、やがて、彼の特許を無視して、勝手に自社の新車に、この装置を取り付け、 1969年に新発売 (特許泥棒!) してしまった。 そこで、Kearns 教授は米国最大の大企業「フォード」を相手どって、個人で裁判闘争を開始した。 裁判は延々続き、1978年になって、フォードがとうとう裁判に負けて、10億ドルを教授に支払った。勿論、特許を無視して、このワイパーを無断で取り付けていたのは、フォードばかりではなく、「クライスラー」、「GM」、「トヨタ」などである。

クライスラーも1994年にとうとう裁判に負け、30億ドルを教授に支払った。 しかしながら、その他の自動車メーカーは特許の期限切れなどのため、裁判による訴訟を逃れた。 この映画は2003年に雑誌「ニューヨーカー」に発表されたジャーナリスト John Seabrook による「Flash of Genius」(天才の閃き) という記事に基づいて、脚色、映画化されたものである。 この映画の日本語タイトルが「幸せのきずな」となった由来は、この特許裁判で、Kearns 教授を長年支え続けた妻や5人の子供たちの涙ぐましい努力を讃えたものである。 この映画で、最も私の印象に残った場面は、Kearns 教授がチャールズ=ディッケンズの小説「二都物語」を陪審員たちに示しながら、「発明とは一体何か」を説明するシーンである。

フォード側の弁護士は 「このワイパーは発明ではない。なぜなら、既存の部品の単なる組み合わせに過ぎないから」と主張していた。 そこで、教授は「二都物語」の第一節を読み上げて、こう反論した。 「この文章に使われているどの単語も既にオックスフォード字典に収録されている言葉ばかりである。しかしながら、それをユニークに組み合わせるだけで、文豪らしい名文、文学作品が創作 (発明) される。発明の価値は、何と何をどう組合せるかで決まる」。 例えば、化合物Aに化合物Xを付加して、Aの薬理作用が20倍しか高まらなかったら、大した発明 (特許に値いする) とは言えないが、化合物BにXを付加すると、薬理作用が500倍以上高まれば、それは大発見に繋がる。 特にBXがPAK遮断剤である場合、それが市販された時の人類への貢献は計り知れない。

ワイパーに限らず、テレビやLEDなどの発明でも、(特許をめぐる) 同じような訴訟事件が発生した。 ある一連の新薬 (PAK遮断剤) に関する特許を申請中の発明家の一人として、この映画は非常に参考になった。 なお、医薬に関する特許侵害訴訟については、2015年のメルク社に対する塩野義KKによる「HIV インテグラーゼ阻害薬」に関する訴訟の提起が記憶に新しい。

2016年1月6日水曜日

可愛い子には旅 (武者修行) をさせろ!

 「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」という故事があるが、実際には 「率先して千尋の谷を下りてゆく勇気のある子供に育て上げねばならない」。 昔は、そういう "若武者" が多かった! 今はいわゆる「井の蛙」が多過ぎる! 未知の世界に身を置き、自らの力で道を切り開くことが、遠い将来の成功への鍵になる高村光太郎の有名な詩 「道程」に、次のような一句がある:  僕の前には、道はない。 僕の後ろに、道はできる。 

私の幼年時代のヒーローは、山田長政とマルコ=ポーロという2人の冒険家だった。 山田長政は江戸時代の始め、鎖国が始まって、海外への渡航が禁止されてしまってから、初めて海外、それも近隣の朝鮮や中国ではなく、はるか遠いシャム王国 (現在のタイ) へ単身で渡り(密航)、数々の手柄を立て、将軍になって、シャムの王様に仕えた最初の日本人である。 不幸にして、政敵に毒殺されて、異国で生涯を終わったが、私には、本で読んだその冒険物語がとても気に入った。

マルコ=ポーロはイタリアのヴェニスの商人の息子で、13世紀の後半のある日、キャラバンを組んで、陸路シルクロードづたいに、はるか中国 (元王朝) の首都 (北京)を訪れ、ジンギス汗の息子 (元帝クビライ汗) に謁見する。 そして、20数年間の中国滞在中に学んだ中国 (東洋) 文化をイタリアに帰国後、『東方見聞録』という形で、西洋の世界に初めて紹介する。マルコ=ポーロの冒険については、往年の名優 「ゲイリー=クーパー」 が主演の白黒映画「マルコ=ポーロの冒険」(1938年)で初めて知ったように記憶している。

以来、私の夢は海外(特に欧米)で "武者修行" を始めることだった。実際にそれがかなえられるようになったのは、大学院で博士号を取得し、1973年の夏、米国のNIHからポスドク向けのフェローシップをもらってからであった。 父親の勧めで、渡米は飛行機ではなく、横浜からアメリカの巨大な貨物船(コンテナ船)で (当時は客船が日米間を周航していなかったので) 、9日間かけて太平洋を渡った。 乗客は私を含めてたった13名、残りは40名以上の船員たちだった。

船上で日本語を喋べれるのは私独りだけだったので、船客や船長あるいは船員などを相手に、毎日朝から晩まで、「無料」の英会話レッスンを楽しんだ。米国の西部海岸 "シアトル" に到着した時には、おかげで、すっかり英会話に慣れていた。 米国の土を踏んだ初日は、親しくなった船客の一人で、シアトルに住んでいる叔母さんの家に一晩泊めてもらった。 翌朝、グレイハウンド=バスで東部海岸に向かって、大陸横断旅行を開始した。 

青土社から数年前に出版された邦訳 「光るクラゲ: GFP開発物語」 (Aglow in the Dark) を読むと、2008年にノーベル化学賞をもらった下村脩さん(米国永住)が、1960年に渡米の際、"氷川丸" (豪華客船!)で太平洋を13日かけて渡航するエピソードを発見するだろう  ("コンテナ船" はシアトルまで 「ノンストップ」 なので、4日早く到着する利点がある!)。  "氷川丸" は、この周航を最後に(横浜の)山下公園に永眠することになる。

私の「秘伝」 (座右の銘) として、渡米中携帯していたのは、太田次郎著「アメーバ:  生命の原型を探る」 (NHKブックス、1970年) という本だった。

太田さんは御茶の水大学理学部の教授で、「フィザルム」 と呼ばれる粘菌アメーバの専門家である。 この本の中で、生化学研究に役立つ色々な種類のユニークなアメーバの特色を紹介してくれた。 例えば、フィザルムの場合は、名古屋大学理学部の秦野さんの収縮蛋白 (ミオシンとアクチン) に関する研究が詳しく紹介されていた。 この研究は (前述したが) 私がドイツのミュンヘンで、「アクチン=キナーゼ」の発見という形で、更に発展させた。

最初に私が注目したのは、巨大アメーバである 「アメーバ=プロテウス」 だった。その長さは 500 ミクロン、その核の直径は50ミクロンもあるので、低倍率の顕微鏡下でも、核移植が可能だった。そこで、私の渡米1年目は、ロッキー山脈の山麓にあるコロラド大学 (ボールダー) のレスター=ゴールドシュタイン教授の下で、核移植の技術をみっちり学んだ。

細胞分裂の直前、核膜が一旦消え、分裂直後に再び新しい核膜が現れる現象に注目して、消えた核がいかに再生されるかを観察するためである。 先ず、アメーバ全体の膜成分をアイソトープでラベルした後、ラベルした核だけを取り出し、ラベルされていない (予め脱核した) アメーバに、ラベルした核を移植し、細胞分裂の前後で、その核膜のラベルがどう消長するかを観察する。結果は極めて明解で、一旦細胞質中に均一に分散した核膜成分は、細胞分裂後に再構成 (集合) され、2つの娘核に均等に分布した。

実は私にとって、一番魅力的だったのは、「ディクチ」と呼ばれる細胞性粘菌の一種であった。 細胞分化のモデルとして、今日でも広く利用されている。周囲に餌がなくなると、単細胞のアメーバが互いに集合して、胞子と柄からなる多細胞生物 (子実体) に分化する珍しいアメーバである。半倍数体 (ハプロイド) が存在するので、色々なミュータントを容易に作成することができる。

最後に、この本には紹介されていない土壌アメーバに、渡米2年目に首都ワシントン郊外にあるNIHで出食わした。 この土壌アメーバから「PAK」という、ミオシンを燐酸化する珍しい発癌キナーゼを発見する幸運に恵まれた。 この土壌アメーバには、「餌なしに合成培地で無菌培養ができる」 という利点がある。この利点を駆使して、微量なPAKでも100 リットル近い大量培養から、純品を精製することができた。 そんな規模で哺乳類細胞を培養したら、一夜にして研究室は破産に追い込れるだろう!

この本のおかげで、私の欧米での最初の15年間の武者修行は、「アメーバ」研究に没頭できた(次の豪州での25年以上は、「癌とPAKに関する分子生物学」に徹した)。 紆余曲折はあったが、アメーバで学んだことが、様々な難病の治療にも役立つ日が遠くない将来にやってくるだろう。 太田さんは、今年91歳を迎えるはずである。 先生の "健康長寿" を心から祈りたい。

2016年1月3日日曜日

トマトの茎/葉/花の芳香成分 (alpha-Tomatine と呼ばれるサポニンの一種) :
抗癌/抗炎症作用を持つPAK遮断剤

トマト、特に自然 (無農薬) 栽培のトマトの茎/葉/花には、強い芳香がある。 この芳香はテルペン系の「alpha-Tomatine」と呼ばれる (水溶性の) 配糖アルカロイドで、害虫を殺す作用 (IC50=100 nM) があることが知られている。 最近、京大のグループによる研究から、トマトが害虫に食べられると、周りのトマトを害虫から守る (集団防衛) 手段として、この揮発性殺虫成分が大量に生産、分泌されるそうである。 従って、害虫には毒であるが、我々人間様にはどうだろうか?

実は、なぜか私は子供の頃からこの芳香が大好きなのである。 そこで、「alpha-Tomatine」について、文献調査をやったところ、台湾の研究グループによれば、驚くなかれ、かなり強い抗癌作用、抗炎症作用などがある (マウス実験では、5 mg/kg で有効) ことが知られていた。 しかも、「COXー2」を間接的に抑制するところから、「PAK」を遮断している可能性が強い (1)。  私は、茎付きの (自然栽培) トマトを購入してきて、茎を切り離し、煎じて「ハーブ茶」として飲んでいる。

ただし、配糖体である「a-Tomatine」には4つも糖がついているので、分子量が大き過ぎて、そのままではBBB (血管脳関門) を通過しない (つまり、脳疾患には効かない) 恐れがある。 そこで、(将来)  脳腫瘍などの治療に応用できるように、糖を切り離して、別の "水溶性かつ塩基性" の側鎖に置換する工夫をしたい。

 alpha-トマチン含量:

花(1100 mg/kg)
葉(975 mg/kg)
茎(896 mg/kg)


未熟果実(465 mg/kg)
熟した青い果実(48 mg/kg)
完熟果実(0.4 mg/kg)

参考文献:  

1. Shih YW1, Shieh JM, Wu PF, Lee YC, Chen YZ, Chiang TA. Alpha-tomatine inactivates PI3K/Akt and ERK signaling pathways in human lung adenocarcinoma A549 cells: effect on metastasis. Food Chem Toxicol. 2009; 47(8):1985-95.