者)が創立した「Afraxis」というベンチャー会社により最近開発されたPAK1
阻害剤の一つであるが、私の理解が正しければ、スイスの製薬会社ロッシュ
傘下にある米国の「ジェネンテック」へ特許のライセンスが最近下ろされ、まも
なく臨床試験が開始される可能性のある合成新薬である。しかしながら、今まで、
その薬理作用データが殆んど公表されていなかった。さて、この8月末になって、
ようやく最初の薬理データ(NF2腫瘍を対象とする動物実験結果)が米国フロリ
ダ州にあるスクリップス研究グループ (1)によって発表されたので、それを以
下に要約したい。
NF2腫瘍は、NF2遺伝子産物(メルリン=PAK1阻害蛋白) の機能不全によって
主に脳内に発生する良性腫瘍(シュワノーマとメニンジオーマの2種)であり、
その増殖にPAK1が必須であることは、既に何度か前述した。そこで、シュワノーマ
腫瘍細胞 (SC4株) の増殖に対するこの薬剤の効果をまず調べた。 細胞
培養系でIC50(細胞増殖を50%抑えるのに必要な薬剤濃度) は1 micro M
だった。試験管内で、直接PAK1を50%阻害するのに必須な濃度 (IC50)が
わずか10 nM (100 分の1) であることから、この薬剤の細胞膜透過能が極めて
悪いことが判明した。更に、このNF2腫瘍をマウスに移植したのち、この薬剤が
腫瘍増殖を強く抑える濃度を調べたところ、毎日100 mg/kgの経口投与が
必要であることが判明した。
我々が数年前に、NZ (ニュージーランド) 産プロポリス「Bio30」で、週2回
100 mg/kgの投与で、完全にNF2腫瘍を萎縮させたデータと比較すると、
この新薬は残念ながら、プロポリス以上に効果があるとは言いがたい。 しかも、
市場に出るのは、恐らく10年先のことであり、「ジェネンテック」から発売されれば、
きっと高価な薬となるだろう。従って、NF2患者が一生飲み続けなければならぬ薬
としては、余り推奨できない。
むしろ、私が将来に向けて推奨したい新薬は 「IPAー3」 と呼ばれる合成PAK1
阻害剤である。 この阻害剤もまだ開発途上にある新薬であるが、香港大学の
研究グループによる最近の動物実験結果 (2) では、週3回 4 mg/kg の投与で、
肝臓癌 (ヘパトーマ) の増殖を強く抑えることが判明した。 つまり 「FRAX597」
に比べて、100倍近い効果がある! この実験結果は、実は「意外」だった。
その理由は、前述の英文で詳しく論じたが、培養系では、余り薬効が優れなかった
からだ (IC50= 30 micro M!)。 恐らく、この薬剤は動物体内で何らかの代謝
(例えば、配糖化) を受けて、強力な新しい(未知の) 阻害剤に変化したに違いない。
「アルクチゲニン」について
蛇足だが、ゴボウシ(牛蒡の種)には、「アルクチゲニン」と呼ばれる抗癌成分が
含まれていることが、最近話題になっているようだ。 目下、国立癌センターを中
心に治験が進められている「アルクチゲニン含有のゴボウシエキス」( GBS-01)
は、直接の証明はないが、PAKを遮断していることは疑いない。すいぞう癌の
増殖、炎症、流感の感染、血管新生などを抑制、PAKの下流にあるERKを遮
断するからだ。 しかし、(特許によれば) エキスのアルクチゲニン含量は高々10%
であり、プロポリスの10倍以上経口しないと、抗癌作用が顕著にならない。 更に、
正常細胞の増殖に必須な「AKT」というキナーゼをも抑制することが知られて
いる。従って、大量に服用すれば、必ず副作用が出るに違いない。 従って、余命
いくばくかの末期すいぞう癌者の治療は別として、一生服用を必要とするNF/
TSC患者にはお勧めできない! 副作用のない(AKTを抑制しない) プロポリスや
花椒エキスをむしろ、NF/TSC患者には推奨したい。
参考文献:
- Licciulli S, Maksimoska J, Zhou C, Troutman S, Kota S, Liu Q, Duron S, Campbell D, Chernoff J, Field J, Marmorstein R, Kissil JL. FRAX597, a small molecule inhibitor of the p21-activated kinases, inhibits tumorigenesis of NF2-associated schwannomas. J Biol Chem. 2013 Aug 19.
- Wong LL, Lam IP, Wong TY, Lai WL, Liu HF, Yeung LL, Ching YP. 2013. IPA-3 Inhibits the Growth of Liver Cancer Cells By Suppressing PAK1 and NF-κB Activation. PLoS One. 8: e68843.
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