線虫は発生の過程で、食物の欠乏や乾燥、高熱など周囲の環境条件が悪化すると、一種の忍耐ホルモンが体中に分泌され、ストレス耐性の幼虫に変態する。この変態現象は、細胞性粘菌の植物化に類似している。 2005年に、韓国ソウルのヨンセイ大学の有機化学者、マンキル・ジュング教授のグループがこの忍耐ホルモン(ダウモンと呼ばれる比較的に水溶性の糖脂質)の化学構造を決定し、その化学合成にも成功した(1)。2009年には、同じグループにより、ダウモン誘導体が合成され、強い抗癌性(IC50=20 nM)があることが示された。 さらに、ごく最近になって、同じグループにより、このホルモン(2mg/kg)を毎日経口させると、(PAK1遺伝子の欠損と同様)マウスの寿命が50%ほど伸びるばかりではなく、炎症を抑えることをも実証した(2)。従って、このホルモンがPAK1(あるいはそのすぐ下流の発癌・老化酵素“ILK”=integrin-linked kinase) を遮断する可能性が極めて高く、我々はヒト由来の膵臓癌細胞などを使って、それを近く実証する実験を計画している。
参考文献:
1.
Jeong
PY, Jung M, Yim YH.et
al.Chemical structure and biological
activity of the C. elegans
dauer-inducing pheromone. Nature. 2005,433: 541-5.
2.
Park
JH, Chung HY, Kim M, et al.Daumone fed late in life improves survival and reduces
hepatic inflammation and fibrosis in mice. Aging Cell. 2014, in press.
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