カロチノイド類の中に「クロセティン」と呼ばれる赤い色素が、衣服 (東南アジア
仏教徒の僧衣) の染料あるいは食品(例えば、インドのサフラン米)の着色に
古来から広く使用されている。 明らかに "人畜無害" の物質である。クロセティンは
通常、「ゲンチオビオース」と呼ばれる2糖類 とエステル結合して、水溶性の配糖体
(クロシン) として、サフランの赤いめしべやクチナシの果実の中に豊富に存在する。
クチナシの乾燥果実 (生薬名: サンシシ) 1 kg から 約 5 gのクロセティンが抽出
されるそうである。 さて、クチナシの実やサフランのめしべエキスは古来から、着色料
ばかりではなく、漢方薬として、抗炎症や血圧低下などの目的にも使用されている。
前述したが、胃潰瘍などの炎症にはPAKが必須である。従って、ひよっとすると
「クロセティン」 がPAKを遮断している可能性がある。
そこで、まず PAKが100%必須であるスイゾウ癌の増殖に対する「クロセティン」の
作用について、誰かテストしているかどうかを文献調査してみた。 あった!
驚くなかれ、2009年に米国中西部にあるカンサス大学医学部の研究グループ
が、「クロセティン」(毎日 4 mg/kg)をマウスに経口投与することによって、
ヒト由来の移植スイゾウ癌の増殖をピタリと抑えるばかりではなく、癌を萎縮させ、
サイズを当初の50%以下にすることを実証していた ( 1 )。 従って、殆んど100%
近い確率で、このカロチノイドは PAK遮断剤であると結論しうる。
しかし、駄目押しに、それを証明する実験が既にやられているかどうかを、更に
文献調査してみた。果たせるかな、あった! 偶然にも全く同じ年に、米国ボストン
にあるハーバード大学の付属病院 (MGH)のグループによって、このカロチノイドが
PAKを遮断することを確かめられてあった (2)。 最近、心臓肥大症にもPAKが
必須であることが明らかになった。 このMGHグループは、このカロチノイド処理
により、マウスの心臓肥大症が抑制されることを実証している。 従って、「クロセティン」
自身、あるいはそれを豊富に含むサフランのめしべやクチナシの実は、「抗腫瘍」や「抗炎症」
などという目的ばかりではなく、「健康長寿」にも役立つことは極めて自明であろう。
参考文献:
1。 Dhar A, Mehta S, Dhar G, Dhar K, et al. Crocetin inhibits pancreatic
cancer cell proliferation and tumor progression in a xenograft mouse model.
Mol Cancer Ther. 2009、 8: 315-23.
2。 Cai J, Yi FF, Bian ZY, Shen DF, et al. Crocetin protects against cardiac
hypertrophy by blocking MEK-ERK1/2 signalling pathway. J Cell Mol Med. 2009、
13: 909-25。
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