ベンチャー製薬会社「アリジェン」(社長: 所 源亮(=ところ げんすけ) 氏) が目下、
開発研究を支援している新薬の一つである。 実は数年前に、私の大学時代
の後輩で、北潔教授 (東大医学部) からもらった、山内一也と北潔による 共著で
「眠り病は眠らない」(岩波科学ライブラリー、2008年) という単行本を読んでい
て、上記のタイトルが稲妻のごとく私の頭を横切った。 これも例の「水平思考」
の所産の一つだ。
彼の専門は分子寄生虫学で、アフリカ大陸に流行しているツェツェバエが媒介
するトリパノソーマという寄生虫 (原虫) によって引き起こされる「睡眠病」に効く
特効薬を目下開発しつつある。この伝染病は人や家畜を永遠に眠らす (殺す)
病気である。その (開発途上の) 特効薬の一つに抗生物質「アスコフラノン」(AF) と
呼ばれる物質がある。AF は植物に病気を起こすカビの一種 (糸状菌)から、
東大農学部 (農芸化学) の田村学造教授の研究室によって、1972年に発見された。
この物質に抗癌作用があることが、同研究室の永井和夫 博士 (東工大名誉教授)
によって、1982年に発見された。どうやら、マクロファージという貪食細胞の呼吸系を
活性化することによって、癌患者の免疫能を高め、癌の転移を抑えるそうだ。
さて、その話を耳にした北教授は、睡眠病の病原体トリパノソーマの呼吸系に、
この物質がどんな影響を与えるか調べ始め、1996年になって極めて面白いことを
発見した。この寄生虫の(無酸素) 解糖系は、哺乳類の解糖系とちがって、シアン
耐性である。酸化酵素 (オキシダーゼ) がシアン耐性であるからだ。AF が
この寄生虫のオキシダーセを選択的に阻害した。哺乳類の解糖系には無害だった!
従って、AF は人畜無害な (副作用のない) 「睡眠病の特効薬」となりうることが
示唆されたわけである。
他方、抗癌作用のメカニズムの詳細も更にわかってきた。2007年に韓国のグルー
プにより、AF がRASーRAFーMEKーERKという発癌キナーゼ経路を遮断する
ことが既に解明されていた。 更に2010年に、同じ研究グループによって、AFが
AMPKやアディポネクチン遺伝子を活性化することも実証されている。
詳しくは前述したが、PAKはRAS発癌経路の要であると同時に、 AMPK を遮断する働きもある。
いいかえれば、AF もアディポロン同様, PAK遮断剤 (=AMPK 活性化剤) なのだ!
従って、この新薬は熱帯アフリカのいわゆる「見捨てられた病気」(眠り病) ば
かりではなく、温帯に住む我々自身を取り巻く癌や糖尿病 (タイプ 2) などの難病
や老化現象の予防、治療にも有効な「人畜無害」の薬になる可能性が 高い。
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