人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2014年10月18日土曜日

PAK1ーdeficient animals:  Fool or wiser than wildーtype? 
(PAK1 と IQ/学習能力との関係)

ヒトを含めて哺乳類には6種類のPAKs(PAK1ー6)が存在し、そのどれも
脳内に豊富に分布する。従って、(少なくとも) その内のどれかが脳の機能、特に
長期の記憶/学習に重要な役割を果たしていることが容易に想像できるだろう。
しかしながら、どのPAKが特に必須であるかは、これらの6種類のPAKsの間
に機能の重複があるため、なかなか解明しにくい。さて、1998年にフランスの
グループが記憶障害のある患者のX染色体上にあるPAK3遺伝子に変異を発見して
以来、少なくともPAK3が記憶力に必須であることが明白になった。しかしながら、
PAK3を欠損したマウスの脳のサイズや形態には特に異常が観察されなかった。
次に2009年になって、PAK1を欠損したマウスが誕生したが、いたって健康で、
脳のサイズや形態にも異常は全く見つからなかった。 ところが、2011年になって、
PAK1とPAK3の両方を欠損(KO)したマウスがカナダのトロントにある小児科病院
(  正平 =ジア・ ゼンピン 教授)グループによって得られた。見かけ上健康そうで、
生まれた直後には脳のサイズ (目方が90 mg 前後) には異常が見られなかったが、
その後、脳の成長速度が正常のマウスに比べてはっきり遅いことが判明した (1)。
成体 (2ー4カ月) の正常マウスの脳の目方が430 mg  に対して、KOマウスの脳は
 260  mg しかなかった。 つまり、(生後の) 正常な成長 (340 mg) に対して、KOマウスの
脳の成長はそのわずか半分 (170 mg) にした達しなかった。

同様な結果がセンチュウでも観察された。 センチュウの場合は哺乳類のPAK3に
相当するのはMAX2 と呼ばれ、PAK1欠損のみでは、脳のサイズや形態に
は異常が観察されなかったが、MAX2 も併せて欠損すると、脳の形態に異常が
発生した。しかしながら、PAK1欠損センチュウは健康で、しかも野生株に比べて
50% 近く長寿であること、および熱耐性であることが我々の手で観察された。
 さて、(少なくとも) 形態的には異常のないPAK1欠損マウスやセンチュウの脳は
機能的にも、つまり記憶/学習能力も正常であろうか?  シンガポールのエドワード=マンサーは、
「長生きはするが馬鹿だろう」 と主張している。 その唯一の根拠は、PAK1が脳に豊富
に分布するから、きっと必須に違いないというものだ。 私はこの主張に同意できない。 恐らく、 
馬鹿でないどころか、野生株よりずっと IQ (知能指数) が高いのではないかと思う。 
根拠は、一般にPAK1が異常に活性化すると、知能が低下する場合が多いからである。 
認知症がその典型的な例である。 もちろん、例外もある。 NF2や統合失調症では IQの低下は全く観察されない
(つまり、PAK1の異常活性化は IQ 低下への必要条件に過ぎず、十分条件ではない)

とにかく、「PAK1レベルと IQ との関係」についてできるだけ早く決着をつけたいので、
次のような実験をセンチュウを使って試みようと計画してい。  センチュウには通常、
シャーレの一端に塩水を置くと、それに向かって好んで移動する性質 (salt-induced
chemotaxis) がある。ところが、センチュウを予め塩水中で絶食させると、シャーレ上の
塩水からむしろ逃避する方向に動くようになる。 これはいわゆる「パブロフの条件反射
反応」の一種で、絶食という「苦い体験」と塩水を結びつけて、塩水を嫌うように
「条件付け」 される結果である。 この現象は明らかに学習 (長期増強=LTP) の
結果である。 従って、PAK1欠損のセンチュウがこの「パブロフの条件反射」を
示す (塩水を避ける) かどうかで、一体「馬鹿か利口か」を判断することができるだろう。

結論:  PAK1は「無用の長物」 (病原/老化キナーゼ) !
驚くなかれ、PAK1欠損マウスやPAK3欠損マウスでは (両方を欠損したマウスと違って)、電気ショック学習 (条件反射) やいわゆる「土地感」のテストでは、野生株と全く同じ学習/記憶能力を発揮する!(1)。つまり、少なくともPAK1はこれらの学習/記憶には全く不必要でありPAK1欠損マウスは正常なマウスと"少なくとも同等"の知能を備えている (馬鹿ではない!) ことが判明した。従って、センチュウや人類の場合も、恐らく同じような結果が予測される。

参考文献:
 1. Huang W, Zhou Z, Asrar S, et al. p21-Activated kinases 1 and 3 control brain size through coordinating neuronal complexity 
and synaptic properties. Mol Cell Biol. 2011; 31: 388-403.

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