人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2008年12月1日月曜日

抗生物質「アスコフラノン」でアフリカ「睡眠病」患者を救おう!

Humanism in Drug Development: A New Cure for Sleeping Sickness in Africa

我が後輩(北潔君)によるヒューマニズムに溢れた国際的な医学貢献を以下に紹介したい! 
詳しくは、最近 「眠リ病は眠らない: 日本発! アフリカを救う新薬」という本が岩波書店
から出版されたので、それを参照してもらいたい。

まず、アフリカ「睡眠病」(眠り病)とは、トリパノソーマという原虫が原因で
発症する感染症だが、この原虫自身が人間や動物のからだに直接入り込むのでは
なく、ツェツェバエというアフリカ大陸中央部に生息する吸血性のハエにより媒
介される。このハエに刺されると、皮膚の傷口から原虫が血液に侵入して、病気
を発症させる。

初期のころは噛まれた場所が赤く腫れて寒気を感じたり、発熱したりするだけで
そのまま治る場合もある。2ー8年ぐらいはそんな軽い症状が続き、感染に気が
つかない人もいる。ところが治療を受けないままに慢性感染が続くと危険だ。昼
間からうとうと眠るようになり、やがて脳で原虫が増殖し始め、最終的には昏睡
状態に陥り、死に至る恐ろしい病気だ。

さて、1972年に東大農学部の田村学造教授により発見された抗生物質「アス
コフラノン」は、抗癌作用および免疫増強作用をもつことが知られていた。 RAS
ーRAFシグナル伝達系を抑制するので、PAKが遮断されている可能性が強い。

25年後の1997年になって初めて、東大医学部の北潔教授らにより、アフリカ
「睡眠病」の病原体であるトリパノソーマ原虫の増殖を、この抗生物質が低濃度
で特異的に阻害することが発見された。2003年には、マウスを使った実験で、
アスコフラノンは投与後30分でトリパノソーマ原虫をほとんど血中から消失さ
せるなど、少量で劇的な作用を示すことが確認された。また、アスコフラノンは
哺乳類にはないミトコンドリアの呼吸酵素を標的とするため、ヒトへの安全性が
高いと予想されている。

ただ、この抗生物質は再発見された「既知」化合物なので、アフリカ「睡眠病」
治療薬の開発に製薬企業の協力が得られる可能性は低い。そこで北教授らは、非
営利団体DNDi(顧みられない病気のための新薬開発イニシアチブ)が案件募
集をしていたアフリカ睡眠病の開発プロジェクトに応募し、採択された。

さて、この企画のパートナーである「アリジェン製薬」は、日本発のアフリカ睡
眠病治療薬「アスコフラノン」の開発を目指す非営利プロジェクト「jHAT
(日本主導によるアフリカ睡眠病治療薬の開発計画)」の設立に向けて、資金
(約10億円)調達に乗り出す。jHATは、この抗生物質の「日本アイデンティ
ティー」を確立するため、原薬生産から製剤化、第I相試験までを、日本国内主導
で実施することに意義を置いている。その後、大手製薬企業に無料で導出する計
画で、最終的にはWHO等の協力を得て、途上国のアフリカ睡眠病患者に「無償」
提供する。ただし、導出先の製造・販売者には、ロイヤリティーを支払う代わり
に、「アフリカの人々のために日本人によって開発された」ことを、製品ラベル
や添付文書等に明記することを義務づけている。

アスコフラノンは、アフリカ睡眠病の症状が出現したステージII向けの治療薬と
して開発が目下進められている。現在ステージIIには、メラルソプソル、エフロ
ルニチンの2種類しか治療薬が存在しない。しかも、メラルソプソルはヒ素剤で、
投与患者の約10%が死亡するなど、安全性に大きな問題がある。また、エフロル
ニチンは高価で、14日間の点滴が必要となるため、多くの患者に対応できないの
が現状だ。

これに対し、アスコフラノンは1回の注射で治療が可能だ。jHATでは、先ず
注射剤として上市し、最終的には1回投与の経口剤の開発を目指している。既に
アスコフラノンの全合成にも成功し、ケニアでヤギを用いた動物実験を重ねた結
果、極めて少量で高い有効性が確認されている。

最後にちょっと触れておきたいもう1つの(日本発の)古い抗生物質がある。19
80年代初頭に北里研究所の大村智らと米国の製薬会社「メリク」との共同研究で
「駆虫剤」として開発された「イベルメクチン」という抗生物質である。アフリカ
で、主に腸内線虫の駆除に長らく活躍してきた安価かつ安全な特効薬である。
1回の経口投与 (0.2 mg/kg)でほとんど完全に駆虫される。線虫のGABA
レセプターを非常に低濃度で特異的に阻害することが知られている。

ところが面白いことには、その後25年近く経ってから、この抗生物質に強い制
癌作用もあるらしいことが分かってきた。最初にその「再発見」をしたのは、ロ
シアのモスクワにある科学アカデミーの研究グループである。2004年のこと
だった。我々はこの古い(メラノーマに関する)文献に基づいて、ごく最近、そ
れが脳腫瘍にも効くことを確認し、その制癌作用のメカニズムを目下、解明しつ
つある。

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