人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2014年4月14日月曜日

細胞性粘菌の植物化ホルモン 「DIFー1」: 抗癌作用を持つ PAK遮断剤?


もう30年以上も昔、私は西独の南、ミュンヘンのマックス・プランク研究所で数年間, Dictyostelium と呼ばれる細胞性粘菌 (アメーバの一種) を研究材料に、ミオシンを燐酸化する酵素 (キナーゼ) について、研究していたことがある。このアメーバの最も面白い点は、周りに食物 (例えば、バクテリア) がなくなると、増殖を停止して、cAMPを分泌しながら、細胞集合を開始し、最終的には、スポア(胞子) とストーク () に分化して、多細胞生物 (子実体) になることである。 従って、最も単純な「分化のモデル」として、世界中で重宝がられてきた。

さて、私が西独でこのアメーバの研究をしていた時分に、英国のケンブリッジ大学のMRC (分子生物学研究所) のロバート・ケイ博士らが、「DIFー1」と呼ばれる化合物  (ポリフェノールの一種) を、このアメーバから精製した (1)。この物質は、アメーバの分化を誘導するホルモンの一種で、特にストーク細胞への分化に必須である。

さて、ごく最近になって、「DIFー1」研究がその後一体いかに発展したかを興味本位で文献調べをしている内に、非常に面白いことを見つけた。「DIFー1」に抗癌作用があるという意外な事実である。 正常細胞の増殖に影響を与えずに、癌細胞の増殖を抑制する。 この抗癌作用の研究は、主に九大医学部薬理の篠栗 俊之 教授の研究室によって、10年ほど前から進められていたようである。ごく最近、動物(マウス)実験で、この物質がヒト由来の移植癌の増殖を抑制することを実証 (2)

その抗癌メカニズムは、どうやらチロシン・キナーゼ「JAK2」の阻害剤であるAG490やブルーベリー由来のプテロスチルベン(PTE)と同様で、最終的には、発癌/老化キナーゼである「PAK」を遮断するようである。 従って、「DIFー1」は、プロポリスなどのPAK遮断ハーブ類と同様、癌ばかりではなく、 各種のPAK依存性難病の治療薬として、将来幅広く活躍する可能性がある。

私は(35年以上も昔) 別のアメーバからPAKを最初に見つけたが、アメーバ由来の「DIFー1」が抗癌 (PAK遮断) 剤であるというのは、偶然であるにしても、実に愉快である。。。 基礎的な「アメーバ研究」が長い目では、人類の「健康長寿」にも貢献しているからである。

参考文献:
1. Kay RR, Dhokia B, Jermyn KA. Purification of stalk-cell-inducing morphogens (DIF-1) from Dictyostelium discoideum. Eur J Biochem. 1983 ; 136: 51-6.
2. Takahashi-Yanaga F, Yoshihara T, Jingushi K, Igawa K, et al. DIF-1 inhibits tumor growth in vivo reducing phosphorylation of GSK-3β and expressions of cyclin D1 and TCF7L2 in cancer model mice. Biochem Pharmacol. 2014 Mar 23. In press.

2014年4月9日水曜日

自閉症ばかりではなく、統合失調症 (精神分裂症) もPAK遮断剤で治療しうる!

数年前、自閉症の一種(脆弱症候群) がPAK依存性の難病であることが、MITの利根川 進教授のグループによって、明らかにされて以来、認知症などいくつかの神経疾患もPAK依存性であることが続々にわかった。 そこで、これらの神経性難病の治療薬として、PAK阻害剤の開発が米国の「アフラキス」というベンチャー会社で開始され、まず「FRAX486」という合成新薬が開発された。利根川教授のMITグループは、2013年初めに、動物実験でこの新薬が脆弱症候群 の症状を軽減することを実証した (1)。

3年ほど前に、米国のカルフォルニア大学で、センチュウを実験材料に使用して、PAKが統合失調症にも必須であることが証明された (2)。  統合失調症の一因は、「DISC1」と呼ばれる抗癌タンパク質が欠損/不全であることが知られている。 このタンパク質の機能不全が起こると、PAKが異常に活性化される。 いいかえれば、「DISC1」は元来 PAK遮断タンパク質の一つなのだ。

さて、ごく最近になって、米国のボルチモアにあるジョンス・ホプキンス大学医学部の 澤 明 (あきら) 教授 (東大医学部卒) のグループが 「DISC1」 を欠損した (統合失調症) マウスを実験材料にして、PAK阻害剤 (例えば、FRAX486など)が、統合失調症によって発生する神経伝達末端 (シナプス) の損傷を遅延あるいは修復することを証明した (3)。 この研究の原動力となった林 (高木) 朗子(あきこ) 博士は、東大医学系大学院に戻って、助教授 として目下活躍! 

従って、近い将来、統合失調症は、プロポリスなど様々なPAKを遮断しうるハーブ類や市販合成医薬品 (例えば、血圧低下剤「グアナベンズ」や抗MS剤「フィンゴリモド」など ) によって治療しうる可能性が出てきた! 

参考文献:  
1. Dolan BM, Duron SG, Campbell DA, et al: Rescue of fragile X syndrome phenotypes in Fmr1 KO mice by the small-molecule PAK inhibitor FRAX486. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 ;110:5671-6.

  2. Chen SY, Huang PH, Cheng HJ. 2011. Disrupted-in-Schizophrenia 1-mediated axon guidance involves TRIO-RAC-PAK small GTPase pathway signaling. Proc Natl Acad Sci U S A. 108:5861-6.
  3. Hayashi-Takagi A, Araki Y, Nakamura M, Vollrath B, et al. PAKs inhibitors ameliorate schizophrenia-associated dendritic spine deterioration in vitro and in vivo during late adolescence. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 3. In press.