人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
For detail, click the above image.

2008年8月24日日曜日

ロバート・シュック著(小林 力訳)「新薬誕生」
(ダイヤモンド社、2008年)

英文原書「Miracle Medicines」は2007年に出版。その邦訳が本年7月初旬に
出版された。致死的な難病に苦しむ患者の命を救った7つの代表的な「奇跡の薬」
を創り出した人々(科学者、臨床医、製薬会社)の英知と執念を描いたドラマ集
である。訳者は、東大薬学部出身の薬学博士で、ある製薬会社の薬理研究所に勤務。
著者は米国の文系(ノンフィクション)ライターであるが、本書のサイエンス面の記述も
正確で ある。訳者自身があとがきでも触れているごとく、本書を読んで、私が感じた
第一印象は、「製薬企業を少し褒め過ぎている」であった。7つの話ともNHK
「プロジェクトX」のごとき、困難・努力・成功といった「美談」ばかりだからだ。

業界を熟知している人々は私自身を含めて、「新薬開発の実状は、そんな感動ド
ラマばかりではない」「現実の企業人は、そんなに立派ではないし、もっと泥々
としている」と批判したくなる。確かに、企業人をきれいごとのみで語ることは
不可能である。しかしながら、金儲けだけでは説明できない、先端科学に挑戦す
る人々、また苦しむ患者を助けたいと熱望する企業人が、少なからず存在するこ
とも事実である。本書は、そういう、いわば「例外的な」7つの成功例(美談)
だけを選り抜いて収録したものである。もちろん、「失敗例」ばかり載せても、
本は売れない。

この訳本の副題は「百万分の一に挑む科学者たち」である。新薬開発の成功確率
は、現在「百万分の一」以下である。つまり、百のプロジェクト・チームが各々
一万の化合物を合成しても、その成功率は、一以下であるというのが、厳しい現
状である。それに負げず、努力と運を持ち合わせた企業やプロジェクトが少なく
とも7つ、新薬を最終的に市場へ出すことに成功した。本書の第6章に登場する
世界最初のシグナル療法剤「グリベック」(癌治療の扉を開く)は、その代表的
な例であり、かつ科学的にみて、最も痛快な発明の例である。数年前、スイスの
製薬会社「ノバーチス」から市販された稀少難病「CML」(慢性骨髄性白血病)
に効く新薬「グリベック」の開発には、その病因 (「ABLーBCR」という染
色体上の遺伝子融合) が判明してから、半世紀以上の歳月が費やされている。
「ABL」と呼ばれるチロシンキナーゼの阻害剤である「グリベック」の開発に
は無数の人々が関与したが、その主役は「先見の明」があったノバーチスのアレッ
クス・マターと臨床医のブライアン・ドルーカーであろう。

とはいえ「グリベック」は決して完ぺきな制癌剤ではない。やがて、この薬に耐
性なCML患者が続々出てきた。さらに、この薬の治療対象になるのは、稀少癌
であるCMLやGISTのみで、全癌患者の百分の一以下に過ぎない。残りの9
9%以上の癌患者には恩恵が全くない。ところが最近、癌の7割以上がその増殖
に「PAK」と呼ばれるキナーゼ (酵素の一種)を必要とすることが判明した。そ
こで、PAK遮断剤が目下いくつか開発途上にある。しかしながら、それらが臨
床テストを経て、最終的に市場へ出るまでには少なくとも数年はかかるだろう。
そこで、医薬品ではないが、既に市販されている健康食品サプルの中からPAK
遮断剤を発掘しようという新しいアプローチが進められている。その一つが強い
抗癌作用を持つ「Bio 30」などに代表されるプロポリス(蜜蝋) エキスであ
る。ミツバチの巣箱から取れる伝承薬プロポリスの歴史は極めて古く、その始ま
りは古代エジプト時代にまで遡ることができる。

しかしながら、プロポリスは厚生省許可の「医薬品」類ではないので、製薬会社
には全くメリットがなく、逆に我々「プロポリス研究者」たちは、商売がたきで
ある製薬企業から「目の敵」にされているという、醜い現状がある。こういった
製薬会社側の「美談」にならないドラマは、本書には全く登場しない。

0 件のコメント: