人々の “健康促進” のために!

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2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2010年2月8日月曜日

書評:「アスピリン企業戦争―薬の王様100年の軌跡 」
チャールズ・マン、マーク・プラマー (共著)、平沢 正夫 (訳)
ダイヤモンド社 (1994年出版)

奇跡の薬「アスピリン」を巡る壮絶な世紀の競争はなお続く

ドイツの「バイエル薬品」が1899年に「アスピリン」という商標で、鎮痛剤
を市販し始めてから、既に100年以上の歳月が経っているが、この薬を巡る企
業間の激しい競争や新しい薬効を見つけ出そうとする医学研究は、今なお続いて
いる。この薬の化学名は「アセチルサリチル酸」(ASA)である。実は、この
化合物は、1763年に英国の町医者 (牧師) エドワード・ストーン が柳の幹の
皮中に発見した生薬「サリチル酸」(SA)を、1897年になって、ドイツの
バイエル社の若き有機化学者 フェリックス・ホフマン がアセチル化して作った
誘導体である。SA自身は酸性が強過ぎ、胃腸に激しい副作用を起こすので、そ
れを中和するために、アセチル化したわけである。実は当時、ホフマンの父親が
重症のリューマチに悩んでいたので、その治療 (鎮痛/消炎) 薬としてSAをま
ず飲ませたが、副作用が強く、それを何とか緩和するために、アセチル誘導体
(ASA)の合成に取り組んだというわけである。この「アスピリン」は、薬業
界でたちまち大ヒットをもたらし、バイエル社は、この鎮痛剤で大儲けをした。
しかし、この薬の成功は、それだけには留まらなかった。その後(20世紀後半)、
英国のジョン・ベインらにより、アスピリンの主な標的が「プロスタグランディ
ン」という脂肪性ホルモンを合成する酵素「サイクロオキシゲナーゼ」(COXー
2)であることが発見されると共に、アスピリンが血小板の凝集を抑えることが
発見され、血栓、心筋梗塞、脳溢血などの循環系病の特効薬としても処方され始
めた。更にごく最近(今世紀初め)には、この酵素「COXー2」の発癌作用を
も抑えることが報告されている。従って、このいわば「万能薬」をめぐって、業
界や医学界で、初陣、先陣を競い合う壮絶な販売/研究競争が、その発見以来一
世紀以上にわたって続いている。 この単行本(邦訳)は、その歴史を、一般大衆
にも理解しやすく面白く綴った、血湧き肉躍る「アスピリン発見/開発物語」で
ある。学生、研究者、業界のビジネスマンにも、大変に参考になる本である。一
読をぜひ勧めたい。

この世紀にわたる「アスピリン戦争」は、泥沼の「ベトナム戦争」、「イラク戦争」、
「アフガン戦争」とは全く違い、難病に苦しむ無数の患者の命を救うべき「知的
な戦い」なので、読んでいて実に胸がすくむ。。。

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