人々の “健康促進” のために!

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2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2015年12月15日火曜日

抄訳「ドクター アロースミス」(シンクレア=ルイス著): 医学を志す青年の理想と現実

米国初のノーベル文学賞作家 「シンクレア=ルイス」 の名作 (1925年出版)。 主人公マーチン=アロースミスは医学生。 20世紀の初め、細菌学の研究 (伝染病の免疫療法の開発) が医学の主流を占めていた頃、「細菌学研究こそ自分の生きる道」と信じ込んで、細菌学の大家「ゴットリーブ」教授に師事したが、色々と複雑な事情から、一時医学部を停学、若い看護婦レオーラと駆け落ちをするなど、挫折時代が続くが、立ち直って、医学部に復学、卒業後、新婦の住むノース=ダコタ州の田舎町で開業医となる。青年の理想と現実をめぐる葛藤を描いた感動的なピューリッツー受賞辞退作。 「細菌学」を「分子医科学」に置き換えれば、今世紀の医学志望の青年たちにも十分通用する作品。 ただし、1997年出版の本邦訳 (小学館) は学生向けに、英文原作の半分ほど (主に前半の学生時代を中心) を抄訳 したものである。

 物語の舞台は、今から90年近く昔、ちょうど野口英世がロックフェラー研究所で梅毒菌に関する研究をしていた頃であり、モデルになっているのは、この研究所にいたある細菌学者である(野口英世自身ではなさそう!)。 実は、この小説は著者 「シンクレア・ルイス」と 細菌学者「ポール・ド・クライフ」との合作である。 後者は翌年に出版されたベストセラー「微生物の狩人」(1926年)の著者で、作家になる以前、ロックフェラー研究所で細菌の研究をしていた。 だから、この小説には臨場感があり溢れている。 結局、主人公は過疎地の医者になる決心をする。目下欧米で放映中の英国製人気テレビドラマ「ドック マーチン」(主人公は、過疎地の風変わりな開業医)のタイトルは、どうやらこの古典小説からヒントを得えたようだ。
 
もう1つ面白いのは、この小説に端役で登場する人物のモデルになった有名な学者である。ロックフェラー研究所 のペイトン・ラウスという癌ウイルス学者。 彼は1911年に最初の癌ウイルスを発見したが、それが世界的に認められてノーベル賞をもらうようになったのは、なんと半世紀も後のことだ。 小説が書かれた1925年当時には、彼の業績に対する学界の評価はかなり低く、小説でもそれが反映されてか、ぱっとしない人物に描かれているのは、同業の癌学者である私には、とても残念に思われる。。。

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