人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2017年12月2日土曜日

SF 小説: 無限かつ永遠の宇宙

「宇宙は (時間においても空間においても) 無限なり」という結論を出して「フィールド賞」をごく最近もらった在英の数学者、寝屋川 寛 (ひろし) 博士は、ちょうど40年前に米国の首都ワシントンの郊外にあるベセスダで誕生した。母親は大阪出身の植物学者、父親は東京出身の薬学者。不思議にも寛の両親は未婚の同棲夫婦だった。「男女の結び付き」は、本人同士の自由意志に従うべきで、「法律や宗教によって制約されるべきではない」という両者の進歩的な考え方による。 更に (母親の希望に従って)、息子は母親の苗字を受け継いだ。 母親は、数年、大阪にある実家の両親の下で息子を育てた後、父親が勤務する英国のケンブリッジ大学のMRC 分子生物学研究所 (シドニー=ブレナー所長) の助手として採用され、寛を連れて英国に永住した。

父親は、ブレナー研究室で、線虫を実験材料にして、寿命の分子生物学を研究していた。線虫の平均寿命は実験動物の中で最短 (2週間前後) なので、例えば哺乳類で最短の寿命を持つマウス (2-3年) に比べて、実験結果がずっと早く得られる。父親の性格自身は柔和だが、ごく短気なので、マウス実験には向いていない。 ある日、夫婦は、紫外線照射を受けた線虫の中に、耐熱性の変異株 (ミュータントR689) を見つけた。一般に、耐熱性のミュータントは、野生株より長生きする。そこで、夫婦はR689株の寿命を調べてみた。 野生株より6割ほど長生きすることが判明した!  人間の平均寿命を80歳と想定すると、その6割 (約50歳) 余計に長生きする計算になる。 この長生き株と野生株のゲノムを比較してみると、たった一つの遺伝子に (機能欠除をもたらす) 変異が起こっていることが判明した、その遺伝子は「PAK」と呼ばれる遺伝子で、哺乳類では、発癌作用があることが知られている。実は、この遺伝子は原始的な土壌アメーバにも存在し、平滑筋などのミオシンを燐酸化する酵素 (キナーゼの一種) を産生する機能を持つ。ミオシンの活性化により、血管壁の平滑筋が収縮すると血圧が高まる。 線虫の実験で、PAKが「寿命を縮める悪玉キナーゼ」でもあることが判明したわけだ。

さて、息子(寛) は、冥想型で、実験科学には余り興味を示さなかった。 イートン校を卒業して、最寄りのケンブリッジ大学の数学科に進学した。指導教官は、父親の友人であるラルフ教授だった。 ラルフ教授は米国のボストン生まれで、若い頃、豪州のメルボルンで育ったというユニークな経歴を持つ。 ラルフ教授は極めてリベラルな思想の持ち主だった。ラルフ夫人はメルボルン大学時代の同級生で、IT (コンピューター) の専門家だった。 ラルフ家と寝屋川家とは、近所同志だった。「 隣の花は美しい」という喩えがあるが、寛には、近所に住む鋭敏なラルフ夫婦の方が、ずっと輝かしく見えた。 それにラルフ教授には、実はギリシャ系の血が4分の1 ほど宿り、ハンサムだった。 ラルフ教授の母親も数学者で、元々はエジプトのカイロ生まれだが、米国人の生物学者と結婚して、産れた4人の子供の末っ子がラルフ教授になった。

寛の母親からの話によると、寛の母方の伯父も有名な数学者だったそうである。従って、寛の数学の才は明らかに、母親からの遺伝子によるようだ。父親は明らかに算数や算盤には長けていたが、数学のような「垂直思考」は苦手だった。 父親の長所は、進化論で有名なダーウインのような「水平思考」だった。 線虫の寿命を縮めるPAKは人類でも同様な機能を持つはずであるから、「PAK遮断剤」を開発すれば、人類の健康寿命も延ばすことができると発想した。そして、最近、強力な「PAK遮断剤」を開発するのにとうとう成功し、特許を取得した。

寛は狭い地球上の話よりも、より広大な宇宙について、考えてみるのが好きだった。そして、遂に彼は、「宇宙は (時間においても空間においても) 無限なり」という結論に達した。人類の寿命は「PAK遮断剤」により延長することはできても、恐らく200歳を越えることはなかろう。しかしながら、(人類全体が滅亡した後にも) 宇宙自身は限り無く膨らみ、永遠に存続するだろう。フィールド賞の受賞演説を、寛はそう結んだ。

聴衆の一人が最後にこう質問した。「宇宙は永遠でしょうが、神の存在はいかがでしょうか?」。寛はそれに答えて、キッパリ言った。「旧約聖書には、神が人類(アダムとイブ) を創造したと印してありますが、実は逆に、万の神は (迷信深い) 人類が勝手に想像/創造した産物です。その証拠に、猿や科学者は神など全く信じていません。だから、人類の滅亡と同時に (神々と "宗教" 戦争は) 速やかに消滅するでしょう。」 (完)

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