人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2009年9月28日月曜日

海鞘の産物「STー2001」から強力なPAK阻害剤?

我々のCEPー1347をNF治療薬にするという計画は、「セファロン」の不協力で
実りそうもなかった。 そこで、もっと(千倍くらい)強力なPAK遮断剤を探し始めた。
CEPー1347は、前述したように、K252aに比較的長い側鎖をつけた誘導体だ。
ある知人から、K252aに似た化合物スタロスポーリン(ST)に同様な側鎖
をつけると、CEPー1347より20倍くらい強力なPAK遮断剤になること
を耳にした。 しかし、これはある会社内の開発途上物質で、我々には入手不可能
だった。 ここで得るべき大事なヒントは、STの誘導体で、PAK阻害のIC50が
1 nMくらいの物質を見つけ出して、こいつに同じような側鎖を施すことに
よって、「PAK特異的な」阻害剤に変え得るというアイディアであった。色々
スクリーニングしているうちに、それらしいものが海洋産物から見つかった。

もし、海鞘を常食にしている者は癌にならない、という伝説があったとしたら、そ
の由縁は、この誘導体のおかげかもしれない。なんとグアム島の沿岸に棲息する
特殊な海鞘から、STの3位に水酸基がついて化合物が、シドニーの海洋研究
所のピーター・シュップによって、2001年に発見された。特にPAKとPKC
というキナーゼを阻害する作用が強い。 しかしながら、PKC阻害剤は副作用が
強いので、常識的には制癌剤にはなりにくい。 そこでこの誘導体
(STー2001と命名)の9位に、(例えば、CEPー1347にあるような)
長い側鎖をつけることによって、特異的にPKC阻害活性を除き、
「PAK特異的な」阻害剤に変えるというアイディアが生まれた。

ここで更に欲を言えせてもらえば、9位に付ける側鎖として、アルキルアミン (例えば、
ヘキシルアミンなど) を選べば、このST誘導体の水溶性が増すと共に、細胞膜を通
過しやすくなるので、将来の臨床への応用に大いに寄与すると期待される。

さて、STー2001を化学的に合成することは可能であるが、収率が極めて低
いので、企業上実用的ではないと、ある有機化学の専門家にいわれた。従って、
この特殊な海鞘をグアム島から大量に採集して、それから微々たる量の
STー2001をせっせと精製する以外には、今のところ方法がないようだ。

もし、STの3位のみを特異的に水酸化する酵素(ST ヒドロキシラーゼ)を、この海鞘か
ら精製、あるいはその遺伝子をクローンすることが将来できれば、(グアム島ま
で出かけなくとも)実験室内で大量にSTー2001を酵素的に合成することが
できるだろう。そうすれば、夢のPAK遮断剤「STー3009」の実現も可能
になろう。

2002年に、富山県立大学生工研の古米保教授の研究室によって、
STの生合成に関与する14種類の遺伝子がクローンされた。面白いことには、
STの生合成経路を調べてみると、アミノ酸である「トリプトファン」2分子が
まず縮合してSTの芳香環を形成することがわかる。次に糖(ヘキソース)部分が
この芳香環に連結される。ところで、トリプトファンを水酸化する酵素 (TRP ヒドロキシラーゼ、
TPH)は、STの3位に相当するトリプトファン部分(5位)を水酸化することが知られている。
従って、理論的には、(既に結晶化もされている)TPHによって、STの3位を特異的に水酸化
し得る可能性もある。

そこで、STを大量に生合成する放線菌 (Streptomyces staurosporeus) 中に
TPH遺伝子(cDNA)を人工的に挿入して、その遺伝子の発現を IPTG(あるいは
熱ショック)などで効率良く誘導して、STー2001を大量に生合成できる新しい菌株
(STーTPH)を作り出すというアイディアが生まれつつある (実は、最近になって、
地球温暖化のためか、この特殊な海鞘がグアム島沿岸から姿を消しつつあるという
一種の危機に直面しているからだ!)。

ところで、TPHの働きには通常、2種類の異なる補酵素(3価の鉄イオンとBH4/
tetrahydrobiopterin) が必要である。 問題は、2番目の補酵素BH4が
(動物の細胞同様)バクテリアにも存在するかどうかである。 もし、存在しなければ、
バクテリアの培養液中に、この補酵素を補充しなければならない。理論的には、かくして
「STーTPH」菌株中でできたSTー2001を精製し、更に9位にヘキシルアミンを付加する
ために、アミノヘキサノールを加えて脱水縮合すれば、夢の水溶性PAK遮断剤「ST3009」が
誕生するはずである。

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