人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2015年2月19日木曜日

PAKをめぐる 「21世紀のイソップ童話」:
"ウサギ" (PAK1) 対 "カメ" (PAK4)


「PAK」と呼ばれる哺乳類キナーゼファミリーには、(PAK1からPAK6まで) 合計6種類の異なるキナーゼが存在する。そのうちで先ず最初 (1994年) に発見されたのが、発癌/老化キナーゼであるPAK1である。発癌キナーゼPAK4が発見されたのは、それから数年後のことである。従って、PAK研究界では、PAK1に関する我々の研究が常に先頭を走っていた。

ところが、最近 (今年になって)、意外な番狂わせが生じた!  PAK4に先陣を奪われる失態をやらかした。実は、PAK1には、発癌や老化現象ばかりではなく、メラニン色素の合成にも必須であることが、少なくとも一年以上前にわかっていた。一対のPAK1遺伝子を黒ネズミから除外すると、(光彩が赤い) 白ネズミが生まれる。つまり、少なくとも体毛や光彩のメラニン色素合成には、PAK1が必須であることが自明である。しかしながら、何故かその発見を科学論文として正式に発表する者が誰もいなかった。主な (失態の) 理由は、恐らくPAK1研究者の大部分が (生死に拘わる) 癌に関する研究に焦点を合わせていたからであろう。メラニン合成は生死に拘わる問題ではないから、ずっと後回しにされたわけである。しかしながら、化粧品会社、特に美白 (肌のメラニン色素合成を抑える) 効果を狙う新しい化粧品を開発する業界には、メラニン色素の研究は極めて重要な (会社の存立にもかかわる) 問題である。

さて、美白効果を狙う化粧品には、PAK1を遮断する種々の天然物 (例えば、CAPE、クルクミン、シコニンなど) が使用されている (1)。 しかしながら、皮肉なことには、化粧品会社は、その美白効果が「PAK1の遮断」によるという事実を全く認識していない。美白化粧品に高い関心を持つ韓国では、肌のメラニン色素に関する研究が (近隣の日本や中国より) ずっと盛んである。そして、つい最近、とうとう韓国の研究者に先陣を奪われてしまった。皮膚のメラニン色素合成には、(PAK1以外に) PAK4が必要であることを発見して、科学 (皮膚科) 雑誌に発表してしまった (2)! 「21世紀のイソップ童話」になってしまった。ずっと先行していた「PAK1研究」が (油断して) 昼寝をしている間に、緩慢な「PAK4研究」がまんまと先にゴールインしてしまった!

幸い、この韓国研究グループは、PAK1が肌のメラニン色素合成にも関与している可能性 (事実) をまだ知らない 。実は、皮膚細胞中のPAK1レベルは、(PAK4レベルに比べて) ずっと低いので、研究が技術上より難しい。そこで、我々は遅ればせながら、それ(皮膚細胞メラニン色素合成へのPAK1の関与) を実験で実証して、論文にまとめる準備を目下急いでいる。

PAK4遮断剤の臨床への応用研究には大きな障害が横たわっている。(実は) PAK4遺伝子を欠損したマウスは、心臓障害などのため、胎内で死亡するため、生まれてこない。更に、抗癌剤として、(最近米国で) 開発されたPAK4遮断剤は臨床実験で、大量出血などの副作用が多いため、開発中止になった。 従って、(私見では) PAK4遮断剤は美白化粧品にしか応用面はないような気がする。 逆に、少なくとも (プロポリスなど) 天然のPAK1遮断剤には副作用が殆んどなく、健康長寿へハッキリ役立つので、医療一般や化粧品などへの応用範囲は極めて広く、その将来 (前途) はバラ色に輝いている。。。

References:   
 1. Lee JY, Choi HJ, Chung TW, Kim CH, et al. Caffeic acid phenethyl ester (CAPE) inhibits alpha-melanocyte stimulating hormone-induced melanin synthesis through suppressing transactivation activity of microphthalmia-associated transcription factor  (MITF). J Nat Prod. 2013 ; 76:1399-405.
2. Yun CY, You ST, Kim JH, Chung JH, et al. p21-Activated Kinase 4 (PAK4) Critically Regulates Melanogenesis via Activation of the CREB/MITF and β-Catenin/MITF Pathways. J Invest Dermatol. 2015, in press. 


「100% PAK1依存性のメラニン合成細胞」株の作成

 (前述したが) メラノーマ細胞は一般にPAK1レベルが (PAK4レベルに比べて) ずっと低いので、PAK1遮断剤で処理しても、高々50%くらいしか、メラニン合成を抑制できない。PAK4依存のメラニン合成が残るからである。そこで、(遺伝子組み替え技術で) この細胞にPAK1遺伝子を大量に挿入し、更にPAK4遺伝子の発現を干渉RNAで選択的に抑制すれば、メラニン合成が殆んど「100% PAK1依存性のメラノーマ細胞」株を作成しうる。(メラニンの定量はごく簡単であるから) この人工細胞株 (PAK1+/PAK4ー)はPAK1遮断剤のスクリーニング用に極めて感度の高い道具となりうる。というわけで、この細胞の作成を今春、琉球大学内に新設の「PAK研究センター」で手がけてみたい。


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