人々の “健康促進” のために!

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2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2008年5月4日日曜日

ハリー・スタイン著「臨床殺人」(1995年、角川書店)

癌の特効薬を巡る臨床サスペンス

主人公は若い医師ダニエルとその同僚であるサブリナという美人研究者。ワシントン近郊にある米国最大の癌研究所が舞台。乳癌に効く特効薬 (化合物J)の開発、臨床試験を巡って展開する新旧の医学研究者たちの間に起こる葛藤と暗躍、そして若い男女の間に芽生えるロマンスをうまく織り交じえた、映画にしても大変面白いスリラー物。

私を含めて日本人読者たちにとって、特に関心をそそるのは、この謎の化合物「J」の出どころだ。20世紀の初めに、梅毒の特効薬「サルバルサン」(当時「化合物606」とも呼ばれていた)を開発して有名になった(「化学療法の父」と呼ばれるようになった)パウル・エーリッヒというユダヤ系の細菌学者がドイツにいた。彼の弟子の一人、秦佐八郎は特効薬「サルバルサン」の発見に重要な役割を果たしたのは、世界中でよく知られている歴史的事実である。さて、彼の弟子の中には、秦以外に2、3人の日本の「伝研」(伝染病研究所)から留学研究していた若い学者がいた。赤痢菌を発見した志賀 潔もその一人だった。

http://www.civic.ninohe.iwate.jp/100W/06/063/page2.htm

さて、ダニエルが化合物「J」の起源を探している内に、ドイツのフランクフルトにあるエーリッヒ博士がその昔所長をしていたGSHという研究所の地下に、化合物「J」の合成法が記された古ぼけた実験ノートを発見する。そして、ノートの持ち主は、ある日本人の有機化学者だということが判明した。ダニエルは、そのノートに従って、臨床試験に必要な大量の化合物「J」の合成に成功するという筋書きがそれに続く。

ところで、「J」という化合物名は、一体どこから来たのだろうか? そのヒントは何となく、上記のエピソードに隠されているように、私には思えてならない。

1 件のコメント:

Heidi さんのコメント...

ドクター アロースミス (地球人ライブラリー)

医者や製薬会社は本来、患者を助けるべき職業や企業である。ところが、金に目がくらんで暴利を追及する余り、医者と製薬会社が結託して、副作用の強い薬や余り効き目のない(いかがわしい)薬を開発、販売、患者に押し売するケースがしばしば世界のどこでも見られる。この名作の主人公「マーチン・アロースミス博士」は、そのような悪徳製薬会社と医者や病院の結託に対して、患者たちの側に立って戦う若い細菌学者、医者の一人である。

物語の舞台は、今から80年近く昔、ちょうど野口英世がロックフェラー研究所で梅毒菌に関する研究をしていた頃であり、モデルになっているのは、この研究所にいたある細菌学者である。 実は、この小説は著者「シンクレア・ルイス」と細菌学者「ポール・ド・クライフ」との合作である。後者は翌年に出版されたベストセラー「微生物の狩人」(1926年)の著者で、作家になる以前、ロックフェラー研究所で細菌の研究をしていた。だから、この小説には臨場感があり溢れている。結局、主人公は過疎地の医者になる決心をする。

目下欧米で放映中の英国製人気テレビドラマ「ドック マーチン」(主人公は、過疎地の風変わりな開業医)のタイトルは、どうやらこの古典小説からヒントを得えたようだ。 
もう1つ面白いのは、この小説に端役で登場する人物のモデルになった有名な学者である。ロックフェラー研究所 のペイトン・ラウスという癌ウイルス学者。彼は1911年に最初の癌ウイルスを発見したが、それが世界的に認められてノーベル賞をもらうようになったのは、なんと半世紀も後のことだ。

小説が書かれた1925年当時には、彼の業績に対する学界の評価はかなり低く、小説でもそれが反映されてか、ぱっとしない人物に描かれているのは、同業の癌学者である私には、とても残念に思われる。。。