人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2017年11月13日月曜日

「幸運」な発見と「不運」な発見は髪一重!

今から30-40年前、私が未だ30代の若者の頃、2種類の新しいキナーゼ (蛋白燐酸酵素) をアメーバ中で発見した。 その当時、私の興味はアメーバ運動 (いわゆる「非筋肉」細胞運動) のメカニズム解明にあった。アメーバ運動も筋肉細胞の収縮運動も、アクチンとミオシンと呼ばれる2種類の収縮蛋白がその原動力になっている。 面白いことには、両方ともATPを分解する機能をもっている。そこで、各々の機能を制御すると思われる各々のキナーゼを発見し、その制御メカニズムを研究することは、潜在的に意味があると確信した。

先ず米国のNIHで40年前に発見したのは、土壌アメーバ由来のミオシン重鎖キナーゼだった。 それまでに、哺乳類の血小板からミオシンの軽鎖を燐酸化するキナーゼは見つかっていたが、重鎖を燐酸化するキナーゼ は未だ見つかっていなかった。そういう意味で、私はミオシン重鎖キナーゼの草分けである。幸運にも、のちに哺乳類にも同じようなキナーゼが発見され「PAK」と名付けられた。 例えば、ミオシンがこの酵素によって燐酸化されると、そのATPase機能がアクチン線維によって初めて活性化され、ATPの分解によって生じた「化学エネルギー」がミオシン蛋白の収縮「運動エネルギー」に転換される。 それだけではない。「PAK」はその他種々の蛋白を燐酸化することによって、発癌や老化などを引き起こすことが判明した。こうして、癌治療や健康長寿をめざす「PAK遮断剤」の開発研究が最近になって、急速に世界中で進められている。

数年後 (1980年代初頭) に、西独のマックス=プランク研究所で、第二のアメーバ=キナーゼを我々は発見した。真性粘菌中のアクチンを燐酸化する酵素で、のちにベルギーのグループによって、「AFK」(Actin-Fragmin Kinase) と命名された。当初、我々はこの酵素を 「CAP42 Kinase」  と呼んだ。 その理由は以下の通りである。

 このアメーバのエキスで、分子量42Kの蛋白が燐酸化されることを先ず発見した。分子量はアクチンとほぼ同じだった。 しかしながら、この蛋白は、実際には2種類の異なる蛋白 (アクチンとフラグミン) の複合体らしかった。この複合体 (CAP42と命名) は、アクチン線維のプラス端をキャップして、その 重合を抑える機能があった。不思議なことに、このキナーゼの機能は「カルシウム」と「アクチン」によって阻害されることがわかった。 同じような機能をもったキナーゼ (PAKの上流で機能するらしい「カゼイン=キナーゼ」の一種) が、哺乳類にも存在するらしいことが後にわかったが、発癌や老化などに結び付くかどうかは、未だ不明のままである。従って、余り注目を浴びぬまま「不運なキナーゼ」に甘んじている。 もしかしたら、100年後に、注目を浴びて「幸運なキナーゼ」に変身するかもしれない。

基礎的な学問研究も、流行歌手などと同様、時代の流れに従って、人気にも不人気にもなる。従って、発明発見の 「幸運、不運」 は正に 「髪一重」 といいべきだろう。 かの有名な物理学者アインシュタインが予言した 「重力波」 も、100年以上の歳月を経て、つい最近、その実在が証明された! 

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