人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2014年11月27日木曜日

PAK阻害剤 (3位が水酸化されたST誘導体)を産生する 「幻」 の海鞘 (ホヤ) を追って:
グアム島から熱帯のブラジル沿岸へ!

12、3年昔、私はグアム島の海洋研究所にいたドイツ人の有機化学者(Peter Schupp)と一緒に、ある海鞘から採集されたスタロスポーリン(ST)のユニークな誘導体について共同研究していた。この誘導体 (STー2001)はインドールカルバゾール環の3位に水酸基が付いているために、STよりずっと強い抗癌作用を示す(IC50=1 nM)。しかし、残念なことには、この誘導体はPAKばかりではなくPKCに対しても強い阻害作用を示し、正常な細胞にも毒性を示すため、臨床にはとても使用できない。

ところが、STに似た抗生物質で 「Kー252a」に関する研究から、9位にかさばる側鎖を付けると、PKCに対する阻害活性を選択的に抑えることがわかっていた。そこで、STー2001の9位に hexylamine などを付加して、水溶性のPAK特異的な阻害剤  「STー3009」を開発する計画を立てていた。 ところが、いざ実験を開始しようとした矢先、その海鞘がグアム島の沿岸から忽然と姿を消してしまったため、十分な量のSTー2001が得られなくなり、実験中止に追いこまれてしまった! 

さて、それから数年以上月日が経った最近、偶然にも大変面白い論文を見つけた。何んと、ブラジル海岸に同じような海鞘が生息していることが判明した (「地球温暖化/海水の酸性化」により、海鞘が太平洋から大西洋に "大移動" したのかもしれない)。放線菌由来のST誘導体で、7位に水酸基が付加した化合物 (UCNー01)が PDK1/PKC の阻害剤として (1987年以来、協和発酵などにより) 開発されつつあるが、その3位に水酸基が付いた 「STー3007」 を産生する海鞘がブラジルの北部沿岸で見つけられた。ブラジルのシエラ大学海洋研究所の科学者による発見である。この海洋誘導体は、癌細胞の増殖をSTより数倍強く抑え (IC50= 10 nM) 、更に正常な細胞には比較的に弱い毒性しかを示さない。

従って、この「STー3007」がなおPAKを阻害するなら、9位に hexylamine を付加して、選択的にPKC阻害作用を弱めれば、将来 (副作用のない) 抗癌剤として臨床に応用しうる可能性がまだある。 そこで、このブラジルの研究者に早速メールでコンタクトをとり、共同研究を申し出た。 おかげで、前途が少しバラ色になってきた!

 実は、STの3位のみに化学的方法で水酸化することは不可能ではないが、収率がひどく悪く経済的に採算がとれないと言われている。そこで、"酵素的に" 3位を選択的に水酸化せざるを得ない。その"酵素" (ST水酸化酵素, STOHase)をこの特殊な海鞘(あるいは、この海洋生物に寄生した微生物)から単離精製するのが、我々に課せられた今後最も重要な課題である。言い換えれば、前途は多少バラ色になったが、なお多難でもある。

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