人々の “健康促進” のために!

人々の “健康促進” のために!
2015年春、沖縄の琉球大学キャンパス内 (産学共同研究棟) に立ち上げた “PAK研究センター” の発足メンバー(左から4人目が、所長の多和田真吉名誉教授)
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2016年1月3日日曜日

「癌」生化学の原点になる発見:
「ストレス=ファイバー」が消えると細胞の癌化が始まる!

この現象を最初に見つけたのは、私の知人でドイツ人のクラウス=ウエーバー博士である。1974年のコールド=スプリング=ハーバー(CSH)シンポジウムの席上で、彼はアクチンやミオシンに対する蛍光抗体を使って、正常細胞が発癌ウイルス「SV40」によって癌化する際、「ストレス=ファイバー」(SF)が消滅することを、初めて世に紹介した (1)。「SF」はアクチン線維とミオシン線維を主体とする「筋肉線維」類似の複合体 (アクトミオシン) である。 以来、若い癌学者の間で、アクチンとミオシンを研究する一種の熱病が蔓延し始めた。

当時NIHに研究留学中の私もその話を聞いて、この伝染病に感染してしまった。そして、2、3年後に土壌アメーバ中に「PAK」(ミオシン=キナーゼ) を発見した。 それから数年後に、マックス=プランク研究所で、粘菌アメーバから、いわゆる「キャップ=キナーゼ」(CK)を発見した。  この"CK"は最終的には、アクチン=キナーゼ (AK)であることが判明した、そして、哺乳類のAKは、どうやら発癌性のCK1(Casein Kinase 1) であるらしいことがわかった。しかも、哺乳類のPAKは発癌性のCK2 (Casein Kinase 2) によって活性化されることも最近わかった。

従って、40年以上昔のクラウス=ウエーバーによる発見は、少なくとも私にとっては「ノーベル賞もの」であると思っている。 彼は(ゲッチンゲンにある)マックス=プランク研究所の所長を既にリタイアして、悠々自適の生活をおくっている。 実は、クラウスは奥さんのメアリー (アメリカ人) と一緒に、(生化学研究には欠かせない) かの有名な「SDSーPAGE」法を、ハーバード大学時代(around 1969) に開発している。更に、2001年頃には、干渉RNAを利用した遺伝子の発現抑制法も開発している  (2006年のノーベル生理/医学賞は惜しくも逃したが)。クラウスは種々の "先端バイオテクノロジー" を開発した、いわゆる「アイディア=マン」である。 彼は酒 (ワイン) 好きで、ひところ、飲み過ぎで容態を悪化させたことがあった。そこで、彼にはいつも「健康長寿」を心がけるよう忠告している。死後には、ノーベル賞をもらえないからである。彼は (昨年末「ノーベル賞」をもらった) 大村さんとほぼ同年配の (1936年にポーランドで生まれた) 生化学者である。 「DNAラセン」で有名なジム=ワトソンは、彼の恩師の一人である。

 最近、シンガポールのグループが(SV40とPAKとの関係について)大変面白い発見をした。SV40ウイルスの発癌蛋白「T抗原」がPAKの活性化を誘導する (2)。 その結果、抗癌蛋白「マーリン」 (NF2遺伝子産物) などがPAKにより燐酸化され、抗癌機能を失う。更に、ドイツのウルム大学のグループによれば、SV40ウイルスによる発癌には、CK1(アクチン=キナーゼ) も必須であることが動物実験で証明された(3)。  従って、SV40による「ストレス=ファイバーの消失」は、PAK やCK1の活性化と極めて密接な関係にあることは、自明であろう。

 最後に、これは駄目押しだが、2002年にギリシャの研究グループが PAK=AK であることを証明する実験を発表していた。 オピウム (阿片/モルヒネ) 様物質で、哺乳類細胞 (OK株)処理すると、PIー3 kinase が活性化され、その下流にあるPAKと複合体を形成する。活性化されたPAKはアクチンを直接燐酸化し、ストレス=ファイバーの消失が観察された (4)。

参考文献:  
1. R Pollack, M Osborn, and K Weber. Patterns of organization of actin and myosin in normal and transformed cultured cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 1975; 72(3): 994–8.

Viral small T oncoproteins transform cells by alleviating hippo-pathway-mediated inhibition of the YAP proto-oncogene. Cell Rep. 2014; 8(3):707-13. 

Impaired CK1 delta activity attenuates SV40-induced cellular transformation in vitro and mouse mammary carcinogenesis in vivo. PLoS One. 2012;7(1):e29709. 

4. Papakonstanti EA, Stournaras C. Association of PI-3 kinase with PAK1 leads to actin phosphorylation and cytoskeletal reorganization. Mol Biol Cell. 2002; 13(8):2946-62.

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